問題克服の処方箋 | |
§付録:持続可能性の条件
§4 森林と農地の喪失をどうするか 4-1 森林と農地の喪失こそ最大で,深刻な環境破壊 4-2 累積債務問題が砂漠化を加速する 4-3 自由貿易でも,富は貧しい国から豊かな国へ流れる 4-4 砂漠化という最大の環境破壊をどのようにするか 4-1 森林と農地の喪失こそ最大で,深刻な環境破壊 現状では,環境問題は炭酸ガス温暖化とオゾンホールとリサイクルの話題がほとんど独占しているが,最大の環境破壊は,世界的な農地と森林の喪失である。この原因は,過剰農業,過剰放牧,過剰伐採といわれているが,そもそもなぜ過剰になるのか,ということの議論が欠けては,植林などという方法によって解決できるわけがない。 砂漠化を進めているのは,穀物の過剰生産と穀物の自由貿易と累積債務である。(9) まず,科学技術はアメリカなど先進国で穀物の過剰生産をひき起こし,穀物の価格を下げてしまった。その結果,まだ穀物を生産できる農地であっても,採算がとれなくなって放棄されている。この放棄された農地は風水害で荒地となり,砂漠化している。 また,先進国での穀物価格の低下は,農民を離農させ,失業問題になった。農民の失業は社会問題であるとともに,農業の崩壊はその国の安全保障問題でもある。そこで農民の離農を抑えるため,この過剰穀物の対策として,先進国アメリカやヨーロッパでは補助金をつけて過剰穀物を輸出している。日本では将来戦争がないと多くの人達が信じているため,先進国の中では,唯一,穀物の生産を他国に頼る国となっている。 農産物の代表的輸出国アメリカの穀物生産量は,人口を養う約5倍である。そのうち1は国民が食べ,3は家畜の餌にし,残りの1を輸出している。これは補助金をつけて,さらに安い価格で輸出している。これだけの多量の過剰生産を戦略物質として位置づけることはできないから,これは単純に失業問題である。また援助物資という形で輸出される穀物も,実は失業対策であった。 1996年の世界の小麦の貿易量は,FAO資料によれば9800万トンであった。その輸出国の筆頭はアメリカ(32%)で,これにカナダ(17%),オーストラリア(15%),フランス(15%),ドイツ(4%),イギリス(4%)が続く(『世界国勢図会98/99版』)。これらの先進農業国だけで小麦の輸出量の90%に近くなっている。 これらの先進農業国の穀物の輸出攻勢を受けて,途上国の穀物生産は壊滅状態になった。アジアは軒並み自給の不可能な国になってしまった。 アフリカでは,昔は小麦を食べなかった。しかし,たびたびの飢饉の際。援助物資の小麦で食の嗜好が変わり,都会の住人に小麦を食べる習慣ができてしまった。 そうなると農家がミレット(きび)などの雑穀を生産しても,都市の住民は買ってくれない。やむなく農業を放棄して,都市のスラムの住民になり,援助穀物により生活することになる。先進国の失業対策は,途上国への失業の輸出を意味している。そして,放棄された農地は,風水害によって荒地となり,砂漠化することになる。 先進国の科学技術による穀物の過剰生産と穀物の輸出は,世界の人々を飢えから解放すると期待された。しかし,事実は逆で,先進国でも途上国でも有用な農地を砂漠化し,将来の飢えの原因を作っている。 TOP 4-2 累積債務問題が砂漠化を加速 砂漠化には,植民地から独立国になったことによる政治問題も関係する。植民地時代,植民地政府は綿花やコーヒーなどを栽培させた。それでも,労働力としての農民を確保するため,自給のための穀物用農地は保護していた。 ところが,独立で状況は一変する。独立した政府に,先進諸国から多大な資本の貸付が行われた。ところが,1982年以降,債務の返還と利息の支払いで,資金は途上国から先進国へ流れることになった。 世界の富は貧しい国から豊かな国へー方的に流れている。途上国ではこの債務や利息の支払いのために,毅物生産をやめてコーヒーなどの換金作物を作っている。しかし,多くの途上国では換金作物を売った額の半分近くをこの返済に当てている。 このような無理をして換金作物を作るため,農地は荒れる一方で,ますます途上国の砂漠化が進むことになる。 肥料を買う余力のない途上国の農民が,都市のスラムへ行かないで,先進農業国の穀物に対抗して農業を続けようとすれば,まだ肥沃な土地のある森を焼き,開墾するはかない。しかし,そのようにして得た農地は2,3年で養分がなくなり,生産性がちるのでそこを捨てて,また別の生産性の高い森林を焼くことになる。 日本へ輸出する木材の過剰伐採も森林を破壊する要因であるが,それ以上に焼畑の方が深刻である。スマトラ島のように,焼畑の火が森林火災の原因となって森を大規模に失うこともある。放牧でも森を焼いている。このようにして利用した森林の跡地はすべて砂漠化している。 TOP 4-3 自由賀易でも,富は貧しい国から豊かな国へ流れる すでに述べたように,途上国の森林と農地の破壊は穀物貿易と累積債務が原因であった。これに加えて,穀物に限らず自由貿易が,途上国の富を一方的に先進国へ流す原因となっている。このことはまだ知られていない事実である。なぜそのようなことになるのか,これをまず証明する(9)。 国際経済論の教科書を開くと,自由貿易は貿易する双方の国にとって利益になると書いてある。しかし,国際経済論の教科書には,その主役である貿易商の役割についてはほとんど記述がない。ここに,現在の国際経済論の欠陥がある。 貿易を考える上で,分かり易い例として,金と銀の相対価格を考える。A国では金1キロと銀5キロが等価でその国の貨幣で一定の金額だとする。一方,B国では金1キロと銀10キロが等価でその国の貨幣で一定の金額だとする。 A国の商人が金1キロを持ってB国にやってくる。これを売ってその国の貨幣を得て,これで銀10キロを買う。これを本国に持って帰って売り,その貨幣で金を買うと金は2キロになる。 同様に,B国の商人が本国で金1キロを銀10キロに替えてから,A国へ行き,これを売って金2キロと交換して本国に帰る。金はやはり2倍になる。自由貿易では,どちらの国の商人も同じだけ儲けることができる。 しかし,この自由貿易には,非常に興味深い結果が存在する。この例ではどちらの場合も銀10キロがB国からA国へ流れているが,A国の商人の貿易では金1キロがA国からB国へ流れるのに対して,B国の商人の貿易では金2キロがA国からB国へ流れることになる。自由貿易では自国の商人が貿易する方が断然得なのである。これを自由貿易の非対称ということにしよう。 等価交換のはずの自由貿易では,財は貿易商のいない貧しい国から貿易商のいる豊かな国へー方的に流出する。かつて日本は長崎貿易で,日本の金銀が外国へ流出する一方だったが,それは鎖国のためオランダや清の貿易商が貿易したからで, この非対称性の結果だった(9)。 豊かな国は, この貿易商に高額の所得税または事業税をかけてその利益の分け前を得ることができる。したがって,豊かな国は貿易商も国もともに利益を得ることができる。しかし,貧しい国は,気が付かない間に富を豊かな国の貿易商に盗まれることになるのである。 第三国のC国の商人が貿易する場合には,手持ちの金1キロを持ってB国へ行き,銀10キロと替えて,A国へ行き,金2キロと交換してC国に帰る。A国でもB国でも,等価交換だから得はしていないかも知れないが,損はしていないと思い込んでいる。しかし,実は,第三国の商人の一方的利益となっている。現在では, この第三国の商人とは多国籍企業のことで,穀物貿易では貿易の77%をカーギルなど大企業5社が占めて,大儲けしている。 貿易商に一方的に利益を持っていかせないようにするには,輸出入どちらに対しても関係国は関税をしっかりかける必要がある。関税には単に産業保護のための税金ということ以上に,自国の富を貿易商から守るという意味もあったのである。 以上の議論から,関税は,所得税または事業税と同質の税金であることが分かる(9)。この徴税額を決めることは,国家,つまりは国民の固有の権利である。 しかし,WTOは,貿易障害の撤廃と関税の大幅引き下げを主張している。これは貿易商の利益を擁護する一方的な主張であり,このような貿易商の代弁者による国際機関や条約は廃止されなければならない。これが,貧しい国をますます貧しくさせ,その国の環境破壊の根本原因になっているからである。 累積債務についても,「国家は倒産しない」という前提で,金貸し業が貸し付けを増やし続けた結果である。そして,IMFやせ界銀行が,累積債務を口実にこれらの国の政治に介入している。形を変えた植民地支配である。この介入によって,最近,ロシア,タイ,インドネシアなどが大型の通貨危機に襲われることになり,この影響で世界の環境破壊はとどまるところがない。 TOP 4-4 砂漠化という最大の環境破壊をどのようにするか 以上述べたように,世界砂漠化の出発点は,穀物の過剰生産であった。これは科学技術の向上の結果であり,人力で穀物を生産する代わりに石油に働かせて穀物を生産した結果である。 この過剰穀物について,先進農業国がとっている輸出という解決方法は正しくない。穀物の過剰供給を抑えるには,(1)生産調整,(2)他用途での使用,(3)備蓄,(4)焼却処分などの諸対策について議論を深める必要がある。 この中でも,焼却など廃棄処分により穀物価格を維持することは良い方法であって,農民と穀物の生産手段を失わずにすむ。食べ物を捨てることの抵抗感は感情的には理解できるが,これは「金の卵とこれを生む鶏のどちらが大切か」という問題である。 過剰の穀物は発電用燃料として利用してもよい。これは植林して燃料にするのとなんら変わらない。また,他の動物の「食べ残し」と同様に,野山にばら撒き,野生動物の餌にして,森林を育てるのに利用してもよい。江戸時代の植林の方法に,はげ山にひえや麦を撒くというのがあった。野鳥が肥料つきで種を運んでくれる。このようにして過剰穀物を処理できれば,世界の砂漠化は防がれ,人間が植林せずとも,森林を復活することができる。 自由貿易の非対称性については,問題の存在を指摘したばかりである。各国がこの非対称性に気づき,ふたたび保護貿易に戻すことができれば。持続可能性の第一条件と第二条件を適用して農地と森林を回復することができる。 しかし,累積債務については,IMFや世界銀行の支配下に入った国々の場合,自立して保護貿易政策をとることは不可能である。この場合,債務不履行宣言をしてIMFや世界銀行の支配から独立し,この措置を国際世論として定着させる必要がある。つまり,国家を一旦倒産させて債務から解放させ,次に新生国家として再建することを世界が認めるのである。 ともかく,このままでは世界中で過剰に生産された穀物により世界の農地と森林を失い,これを農耕できない荒地や砂漠にするのは確実である。この時,地球寒冷化が襲うであろう。われわれが,炭酸ガス温暖化やオゾンホールやリサイクルなど,どうでもよい問題に夢中になり,この穀物の過剰生産,自由貿易,累積債務をなすすべなく見逃したばかりに,子孫は飢えと寒さに苦しむことになる。 以上述べたように,環境経済論の議論すべき対象は広い。それは,それぞれの分野の専門家のいう見解をそのまま鵜呑みにできないからである。専門家の説明にはまず疑うことが必要で,その中に潜む矛盾を見つけたら,次は自分で考えなければならない。そのようにして得られた新見解は,多くの人との討論で正しいかどうか検証されることになる。 (1999年1月5日 記) TOP 問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より |
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更新履歴 新規作成:Mar.6.2009 最終更新日:Mar.12.2009 |
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