生きている地球
~ 環境問題を見る視点 ~


その7 環境問題と工業技術の限界(2001/07/10)

 これまで、地球の姿や生態系・工業化社会について述べてきました。

しかし、結論は使えばなくなるものを一方的に消費すればいずれその活動は止まらざるを得ないこと、そしてその後には廃物による汚染が残ってしまうという、ほとんどあたりまえの結果でした。

 そんなあたりまえの結果がなかなか理解されない背景には、産業革命以来、工業技術が実現してきた数々の実績に目を奪われ、環境問題についても、「いずれ科学技術が解決してくれる」という裏付けのない漠然とした期待、『科学信仰』があるからでしょう。

また、科学技術があまりにも細分化されていて、個別分野の技術開発に埋没した結果、全体像を見失っている現在の科学技術の危機的な状況があると思います。

 環境問題の本質とは、既に見てきたように工業化社会という閉鎖型のシステムが資源を一方的に消費して地球環境に物エントロピーを増加させ、地球の定常性を破壊している問題でした。

「閉鎖系の全ての活動はエントロピーを単調に増加させる」という熱学の法則は、環境問題を工業技術で解決することができないことを示しています。

どんなに高度な工業技術にもエントロピーを減らすことは絶対できないのです。

これはやってみないと分からない問題ではなく、既に結論の出ている問題です。

私たちはまず、この『事実』を受け入れるところから環境問題に対処する方法を考え始めなければなりません。

 現在の環境問題の原因は肥大化した工業生産システムの存在にあります。

そして、環境問題は工業技術では解決することが出来ません。

ですから、対処の方法はほとんど自明です。

まず第一に、原因である工業生産システムを段階的に縮小していくことです。

そして、これまで工業生産システムで傷つき、失われた、地球の定常性を保証している最も基本的で重要な仕組である生態系の物質循環を回復し、さらに豊かなものにしていくことです。

 ここで重要なのは、工業化社会という人間社会の特殊なシステムが環境問題の原因ですが、それはヒトの存在そのものが原因ではありません。

生態系の一員としてヒトが積極的にかかわりを持つことによって生態系の物質循環は更に豊かになる可能性があります。

生態系を豊かにする中で、それに見合った豊かさを獲得することが、唯一、持続的な人間社会を保証することになります。

~ 環境問題を見る視点 ~ 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.19,2008
最終更新日:Mar.13,2009