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第十二節 娯楽(角力、神楽、手踊リ、獅子舞、祝宴、兎狩、射的会、旅行、将棋、飲ムコト食フコト、歌フコト)>
一、角 力
氏神其他祭典ノ際ハ、ヨク行ハレタルモノニシテ、殊ニ夜角力盛ンナリキ。又若者共ノ集会ニハ、屹度相互ニ角力シテ、以テ楽シミタルモノナリキ。然ルニ維新以後ニ至リ、漸次文弱ニ流ルル傾キアリテ、角力トカ石舁ギトカ云フ力事ハ何トナク卑ム風アリテ、明治三十五・六年頃ニハ全ク廃シタリシガ、現今ハ青年団等ニ於テ体力錬磨ノ事業トシテ角力奨励スル等ノ結果、再ビ盛ナル傾況ヲ呈セリ。
二、神 楽(一名・南部神楽)
從前ハ神楽ヲ舞フ者多ク、鬼死骸神楽、滝沢神楽、狐禅寺神楽等アリ、神社ノ祭典ニハ必ズ神楽ヲ奉納シ、若者相集リテ楽シミタリ。然ルニ、之レ又、維新後ニ至リ、漸衰徴ヲ呈シ、殊ニ明治三十三・四年頃ハ、神楽モ遊芸ノ一トシテ鑑札ヲ所有セザルベカラズナド、厳重ナル取締リヲナス警官等モアリ。一方、若者共ノ学問熱高マリテ、神楽ナド舞フハ小馬鹿臭シトテ舞フ者少ク、前記ノ内、唯、鬼死骸神楽ノミ、常ノ如ク仲間ヲ作リテ舞イ居レリ。然ルニ二十三年以降、牧沢ニ一組、狐禅寺ニ二組ノ神楽、組織セラレタリ。之レ青年ノ娯楽渇仰ノ結果モアランカ、一面ニハ農作モ好況ニ向ヒタル結果モアルナルベシ。
神楽舞ノ種類ハ数多ク、此ニ其ノ全部ヲ掲グル能ハズ。其ノ普通行ハルルモノハ、
○神代物
鳥舞 三番臾 天ノ岩戸 山神舞 彦炎出見尊 三熊退治 八岐し大蛇退治 水神明神舞 御宝焼
注連切り舞 四季分神
○其ノ他雑物
天ノ羽衣 叢雲 源平屋島合戦 老松若松 信田森 田村 膽沢ノ家門長者 弁慶辻切
三、手踊り
男女ノ若者共ハ、旧正月等農閑ノ場合ニ於テ、さんさしぐれ、おいとこ、伊勢音戸、甚句、其他ノ俗歌ニ適應おうセル手踊リノ稽古ヲナシ、祝宴等ノアル場合ハ、踊リテ楽シミタルモノナリシガ、之レ又、維新後、諸事改革セラレ、手踊リハ西洋舞踏ト変ジ、在来ノ手踊リハ何トナク卑マルル傾キアルニ至リテ、漸ク衰ヘタリ。
四、獅子舞
獅子舞ハ維新前迄、狐禅寺ノ一部ニ組織セラレ行ハレタリト云フ。今ハ全ク行ハレズ。
五、祝 宴
從前ハ、民間ニヨク共同作業行ハレタリ。例ヘバ、男子ノ藁細工・米搗キ、女子ノ麻ウミ・麦搗キ等ノ如シ。一部落又ハ十数戸互ニ申合セ、巡番ニ作業ヲナシ、終レバ「めだし」トテ酒、米、味噌其他必要品ヲ持寄リテ、楽シク粗宴ヲ張リ、以テ楽シミタリ。今モ猶「めだし」トイフコト行ハルレドモ、從前ノ如クナラズ。
六、兎 狩
從前ハ、現在ヨリ野獣モ多ク棲ミ、積雪モ多カリシ故、若者共ハ冬季ニ至レバ互ニ申合セ、銃手勢子ヲ分チ、勇マシク兎狩リヲナシ、其ノ獲物ハ直チニ料理シテ食ヒ、以テ楽シミトセリ。此ノ風勇壮ニシテ、且又、體力養成上ニモ効アリ。今日、青年会等ニテ時々催スコトアルモ、從前ノ如ク野獣多カラズ、獲物少キヲ以テ、其ノ興味薄レタリ。
七、射的会
從前ハ、盂蘭盆休ミ等ノ期ヲ利用シ、盛ニ射的会行ハレタリ。的ハ間数ニ応ジ大小アリ。而シテソノ裏面ニハ「かけこと」行ハレタリ。盛大ナリシハ、或ハ之レガタメナランカ。然ルニ、維新後ニ特ニ明治二十四年頃ヨリハ、規則ノ厳重ナルト人心ノ赴ク所、自然從前ノ如ク盛ナラズ。在郷軍人会・青年会等ニ於テ、賞射撃等行フコトアルモ、從前ノ盛況ヲ見ザルハ遺憾ナリ。
八、旅 行
旅行ト云ヘバ、今日ノ如ク実行視察団トカ何々遠足トカ云フモノニアラズ。即チ、從前ノ旅行ハ、神社ヲ中心トシテ行ハレタルモノナリ。サレバ参宮参詣等ト称スル方適切ナラン。部落又ハ有志相諮リテ、神社ヲ中心トシ講中ヲ組織シ、期日々々ニ掛金ヲ掛ケ(掛ケ金ヲ掛ケル場合ハ其ノ神ノ精進ヲナス)、其ノ集金ヲ以テ三十五人ヅツ順番ニ参詣ニ出立スルモノトス。
其ノ行ワレタル重ナルモノハ、伊勢講、最上講、金華山講、山神講、竹駒講、古峯講、其ノ他。
九、将 棋
從前ニ於テ室内娯楽トシテヨク行ハレタルガ如シ。即チ、正月・盆等ノ休日ニハ、相集リテ楽シミタルモノトス。之レ中年以上ニ多ク行ハレタルナリ。近来ハ之ヲ弄ブモノ至リテ少クナレリ。
十、飲ムコト・食フコト・歌フコト
之レハ敢テ本村民ト云フニアラズ。一般農民ノ娯楽トシテハ、飲ムト云フコト、食フト云フコト、無上ノ娯楽ナリシナリ。今日ニ於テモ然リ。集会ニハ必ズ、食フト云フコト伴ハザルハナシ。尤モ、其ノ飲食タルヤ、質素簡単ナルモノニシテ、互ニ持チ寄ルヲ普通トス。而シテ、飲ンデ食フテ盛ニ歌ヘ盛ニ踊リ跳ネ、其ノ心襟ヲ啓キテ互ニ遠慮ナク喜ビ楽ム状。到底農民以外ニ於テ見ル能ハザル所ナリトス。
カクシテ、一日又ハ一夜ノ快ヲ盡シ、元気ヲ鼓舞シテ翌日未明ヨリ各々其ノ業務ニ從ヒ、当時ノ面白カリシ様ハ中々忘ルル能ハズ。故ニ「祭リノ後ハ七日面白イ」ト云フ俚諺サヘアリ。
又、野良ニ出テ高声ヲ発シテ良ク歌フ。之レ又、無上ノ娯楽ナリ。歩クニモ歌フ働クニモ歌フ。休ミツツモ口ズサム。而シテ、快ヲ得テ労ヲ忘ル。其ノ神聖ニシテ津々タル興味、実ニ農民ナラデハ味フ能ハザル所ナリ。
然ルニ近来ハ、若者共何トナリ立派風ヲ装ヒ、此ノ飲ミ食フ歌フニモ天眞ノ情ナク、從ッテコノ種ノ神聖ナル楽ヲ味フ能ハザルガ如シ。農村民トシテハ如何ノモノニヤ。
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底本:「復刻 眞瀧村誌」
2003(平成15)年6月10日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
2004年3月10日作成