第四節　養　蚕
　本村ノ家蚕、明治七、八年頃ヨリ飼育スルモノアリト雖モ、其ノ戸数二・三ニ止リ、掃立数モ僅々数フルニ足ラザリキ。明治三十一年ヨリ四十年ニ至ル十ヶ年間ニ於ケル蚕業ハ、飼育戸数五一、掃立枚数六〇ヲ算スルニ至ル。飼育法モ稍進歩セリト雖モ、又以テ充分ナリトセズ。明治四十一年ヨリ大正五年ニ於ケル進歩発達ハ著ク、春蚕戸数一六〇余、枚数百三十ヲ算スルニ至ル。從ッテ飼育方法モ又熟達シ、違蚕等ナク、将来益々有望ナル副業ナリト言フベシ。
　因ニ大正三年ヨリ、本村眞柴ニハ、稚蚕共同飼育組合ヲ組織シ、教師ヲ雇入レ、飼育方法ヲ講究シ、蚕繭ノ共同販売ヲモナシツツアリ。

　本村ニ於ケル蚕児飼育法ノ概要
　一、品　種
　　一化蚕ー青熟、赤熟、又昔、小石丸、黄金
　　二化蚕ー金巣、大草
　二、催　青
　種卵ハ日光直射セズ、清冷ナル温度激変ノ憂ナキ處ニ貯ヘ置キ、桑葉既ニ発萌シ蚕児ヲ飼フニ宜シキニ及ベバ、之ヲ催青セシム。其ノ法、先ツ一二ノ蚕児孵化スルヲ通例トスルガ故ニ、之ヲ紙ニ包ミ室内ニ吊シ、爐火ヲ以テ温暖ナラシム。蚕種ハ、素ヨリ清冷ノ處ニ貯ヘ置キタルモノナレバ、急ニ高温ニ遇ハセメサルヲ要スルカ故ニ、漸次、温度ヲ高メ七十度位ニ加温スルトキハ、蚕卵内ノ胚子ハ漸ク発達シテ、終ニ蚕体ヲ形成ス。蚕体既ニ充分ニ形成スルニ及ンデ、其ノ色、卵殻ヲ透シテ青ク見ユ。是ニ於テ蚕児ハ卵殻ヲ破リテ蠢出ス。
　三、掃　立
　種卵、催青シ、之ヲ紙ニ包ミテ温度ニ遇ハシムルトキハ、大凡一昼夜ニシテ孵化ス。其ノ蟻蚕ヲ、其ノ蚕箔ニ移スヲ通例トシ、其ノ法孵化シ出タルモノヲ、羽菷ヲ以テ種紙ヨリ掃キ落ス。而シテ蚕箔ニ粟糠ヲ撒布シ、其ノ上ニ凡ソ一分大ニ細砕シタル桑葉篩ヒ撒布スルヲ通例トス。
　四、蚕児ノ発育並ニ其ノ取扱
　掃立後、蚕児ハ桑葉ヲ与フルニ從ヒ、其ノ体積ヲ増加スルヲ以テ、成長ノ割合ニ應ジ適度ニ分箔除沙給桑ヲナス。蟻料一匁ニ対スル齢間ノ普通給桑ヲ示セバ左ノ如シ。

給 桑	毎 日 給 桑 回 数
一 〇 、 二 七	七 回	第 一 齢
〇 、 六 四	六	第 二 齢
二 、 二 〇	六	第 三 齢
九 、 〇 六	五	第 四 齢
三 四 、 二 〇	四	第 五 齢

　第五齢ハ、七日乃支八日ニテ熟蚕トナル。此ノ場合、豫メ準備シ置キタル簇ニ上ボスヲ通例トス。之ヲ上簇ト言フ。
　五、収　繭
　上簇後、凡ソ一週日ヲ経レバ繭ヲ簇ヨリ採取ス。之レヲ俗ニ繭カキト云フ。其ノ善悪ニ随ヒ之ヲ選別シ、直チニ市場ニ売出スヲ通例トス。
　参照　繭ノ販路左ノ如シ。
　　　　山目村　　山十製紙場
　　　　一　関　　岡谷製糸場
　　　　　仝　　　片倉製糸場
　　　　　仝　　　尾澤組製糸場
　其ノ他二三ノ仲買商アリテ競争購買ヲナス傾向アリ。
　六、夏秋蚕
　飼育法ハ、春蚕ト異ナルコトナリ。其ノ取扱容易ナルヲ以テ省畧ス。
　本村春蚕飼育状況調（自明治三十九年至大正四年）

一 石 価 格	屑 繭 収 量	一 石 価 格	出 殻 繭 収 量	一 石 価 格	玉 繭 収 量	一 石 価 格	収 繭 量	掃 立 枚 数	飼 育 戸 数	事　／ 項／ ／年
一 〇 円	〇 、 八 斗			二 〇 円	一 石	四 六 円	六 石	一 二 、 五	一 二	三 九 年	明 治
一 二	二 、 〇			二 〇	二	五 三	二 八	四 六	二 一	四 〇 年
五	二 、 〇			三 六	六	五 〇	一 七	二 三	一 六	四 一 年
四	〇 、 九			一 八	四	四 〇	二 七	三 八	一 一	四 二 年
六	六 、 一 六			一 七	六 、 七 二	四 四	五 二 、 二	五 六	四 七	四 三 年
七	三 、 〇			一 七	五 、 二	四 〇	四 八 、 三	五 一	四 四	四 四 年
六	八 、 二			一 五	三 、 三	三 八	一 六 〇	一 七 三	九 八	元 年	大 正
八	一 一 、 一			二 〇	一 二 、 九	五 〇	一 一 三	一 三 二	九 四	二 年
八	一 六 、 六			二 〇	二 〇 、 八	五 〇	一 六 一 、 七	一 七 四	一 〇 五	三 年
四	一 一 、 二			一 二	一 二 、 九	二 八	一 三 一 、 五	一 二 四	八 〇	四 年

　夏蚕及秋蚕飼育状況調

一 石 価 格	屑 繭 収 量	一 石 価 格	玉 繭 収 量	一 石 価 格	収 繭 量	掃 立 枚 数	飼 育 戸 数	事　／ 項／ ／年
一 〇 円	〇 、 五 石	一 五 円	〇 、 二 石	三 六 円	二 、 五 石	三 枚	三 戸	明 治 四 三 年	夏 蚕 ノ 部
一 〇	二 、 五	一 五	〇 、 八	三 八	二 二 、 四	二 六	二 四	明 治 四 四 年
七	二 、 一	一 七	〇 、 八	四 〇	二 〇	二 五	二 一	大 正 元 年
八	二 、 七	二 〇	二 、 六	四 五	二 〇	二 六	三 五	大 正 二 年
五	一 、 一	一 五	一 、 一	二 五	五 、 六	七	一 三	大 正 三 年
一 三	一 、 九	一 二	一 、 八	三 〇	一 三 、 七	一 八	二 七	大 正 四 年
七	一 、 五	一 七	〇 、 五	四 〇	一 二 、 八	一 六	三 六	大 正 元 年	秋 蚕 ノ 部
八	一 、 九	二 〇	一 、 九	四 五	一 四 、 五	一 八	二 七	大 正 二 年
五	五 、 六	一 五	五	二 五	三 一 、 六	三 五	五 二	大 正 三 年
一 三	二 、 四	一 二	四 、 八	三 〇	三 六 、 八	四 一	五 四	大 正 四 年

　小学校生徒一蛾育蚕
　夏秋蚕奨励ノ目的ヲ以テ、明治四十四年、本郡小学校会議ニ於テ、尋常小学校題四学年以上ノ女子ニ秋蚕一蛾飼育ヲナサシムベキコトニ決議セリ。然ルニ本村ニ於テハ、前表ニ示ス如ク、夏秋蚕振ハズ奨励ノ緊要ナルヲ以テ、男女生共ニ飼育セシムルコトヽシ、蚕種ハ西磐井郡蚕種組合ヨリ無代配布ヲ受ケ、之ヲ配当シテ飼育セシメ、年々継続実施シ来レリ。生徒ハ熱心ニ飼育ヲナシ、家族又児童ト共ニ幾分ノ飼育ヲナスニ至リ飼育奨励ト共ニ其ノ飼育方法ニ於テモ大イニ見ルベキモノアルニ至レリ。
　大正五年、岩手縣教育会西磐井郡部会ニ於テハ、小学校生徒一蛾育蚕繭品評会ヲ開催ス。

　秋蚕繭品評会
　秋蚕奨励ノ目的ニテ、小学校生徒ニ至ルマデ飼育ヲナサシメタルコト、前記ノ如シ。猶奨励ノタメニ本村各小学校ハ眞柴稚蚕共同飼育組合ト連合シ、大正三年九月一日ヨリ三日間、眞柴小学校ニ於テ、秋蚕繭品評会ヲ開催セリ。出品点数ハ小学校二百二点、飼育組合四十点、外二十三点、計二百六十五点ニシテ、西磐井郡長ニ審査員ノ派遣ヲ申請シ審査ノ上、郡長ヨリ其レゾレ賞状ヲ下附セラレ、眞柴稚蚕組合ニ於テハ賞品ヲ授與セラレタリ。此レ本村ニ於ケル蚕繭品評会ノ嚆矢トス。
　
　桑園反別及収葉量
　從来、本村ノ養蚕不振ナリシ事実ハ、前述ノ如シ。從ッテ、桑園ノ設置モ又少ナカリシナリ。明治四十一年、岩手縣ノ栽桑奨励金下附規定ヲ発布スルニ及ビ、本村農会又大イニ奨励セスレバ、年々、裁植者増加シ、大正四年ニ至ル七ヶ年間ニ、四十六町歩ノ増加ヲ見、合計六十五町九反歩ヲ得ルニ至レリ。

　仕立法
　在来ハ、自然ニ放任シテ顧ミラレザリシガ、栽桑奨励ト共ニ、数年間継続シテ秋田縣高田重右ェ門氏ヲ聘シテ実施指導ヲ受ケタル結果、栽培法又改良セラレ、高田式仕立ヲナス者多キニ至レリ。然ルニ其ノ後、各自大イニ栽培法ヲ研究シ、諸種ノ仕立法、自然行ハレテ高木中刈折法、根刈其ノ他ノ方法ニヨリ植栽セラルヽニ至レリ。
　苗木ハ他ヨリ購入スレドモ、本村眞柴千葉善作等、之レガ仕立ヲナシ供給スルモノ大部ヲ占ム。殊ニ大正三年ヨリ宮田覺治ナル人、狐禅寺舞台ニ於テ五十七反歩ノ畑ヲ採苗圃ニ仕立テヽ大規模ニ採苗ヲナシ、以テ近郷近在ニ供給シツヽアリ。
　本村内ニ普通裁植セラルル桑樹ノ種類、左ノ如シ。
　　高木仕立ニ用フルモノ
　　　　市平（早）　魯桑（中）　鶴田（中）　落井（中）　島ノ内（晩）　山中高助（晩）
　　刈桑仕立ニ用フルモノ
　　　　市平（早）　黄金（早）　魯桑（中）　鶴田（中）　青木（中）　落井（中）
　　　　タカネヲ（中）　姫鶴（中）　御所撰（中）　島ノ内（晩）
　桑葉数量ハ、大正三年三月三十一日、眞瀧村役場調査ニヨレバ、四万弐千五百八拾貫匁ナリトス。

　眞柴稚蚕共同飼育組合
　蚕業奨励ノタメ、当局ノ指導奨励ニヨリ、本村眞柴稲部平太郎・千葉長一・千葉善作等世話ノ任ニ当リ、稚蚕共同飼育組合ヲ組織スベク、千葉第三郎以下九名ノ組合員ヲ募リ大正元年十二月一日、規約ヲ作製シ、愈々組合ヲ組織シ、翌大正二年ヨリ実行シ、今日ニ至レリ。当初ハ組合員ノ数モ少ナク、殆ント眞柴内一部ニ限ラレタル観アリシガ、其ノ成績ノ良好ナルト、当局ノ指導奨励宜シキヲ得タル結果、今日ニ於テハ眞柴内ニテ養蚕ヲナス者ハ殆ンド加入セザルナク、組合員モ自然増加スルニ至レリ。本組合ノ組織セラレテ以来、如何ニ養蚕ノ発達セルカハ、前項飼育状況調ヲ見レバ明カナルベシ。
　　【備考】西磐井郡農会ハ、奨励ノタメ組合員ノ成績ヲ調査シテ、年々其ノ等級ニヨリ奨励金ヲ交付セリ。其ノ額年ニヨリ増減アリ、金参拾円及至六拾円内外トス。

　眞柴稚蚕共同飼育組合規約（大正元年十二月一日決定）
第一條　本組合ハ養蚕ノ改良発達ヲ図ルノ目的ニシテ、公利公徳ヲ重ンジ、相互ノ親睦ヲ厚クシ、勤倹力行貯蓄心ヲ涵養スルヲ旨トス
第二條　前條ノ目的ニテ左ノ事業ヲ行フ
　　一、蚕種共同購入
　　一、蚕種共同貯蔵
　　一、蚕種共同催青
　　一、蚕児ノ共同稚蚕飼育
第三條　本組合ニ組合長一名、副組合長一名、幹事三名ヲ置ク
　　一、組合長ハ組合ヲ総理シ、且ツ外部ニ対シテ代表権ヲ有ス
　　一、副組合長ハ組合長ヲ補佐シ、組合長事故アルトキハ之ニ代ル
　　一、幹事ハ組合長ノ指命ニヨリ組合ノ事務ヲ督励シ及庶務会計ノ任ニ当ル
第四條　役員ハ総テ組合員ノ互選トシ年限三ヶ年トス
第五條　蚕種共同購入ヲナスニハ、毎年五月ニ於テ、蚕種製造視察員ヲ二名選挙シ置キ、毎年五、六月ノ頃視察員ヲ出張セシメ、蚕種製造者ノ蚕児若クハ蚕繭発蛾ヲ親シク視察シ良好ト認ムルモノヲ選択採用ス
第六條　蚕種ノ共同貯蔵ハ勿論ニシテ、共同催青蚕児共同飼育ニ於テハ、概畧左ノ方法ニヨルモノトス
　　一、担当者ヲ選定スルコト
　　二、共同催青及共同飼育ノ箇所ヲ選定スルコト
　　三、前項個所即チ共同稚蚕飼育室並ニ其ノ所要ノ蚕具ハ特ニ消毒ヲ厳重ニスベシ
　　四、炭、油、糖類其ノ他期間中、所要消耗品類ハ、予算ヲ立テ事業着手前ニ於テ組合員各自ヨリ取立テ置クベシ
第七條　前條ノ各項事業ハ、其ノ事業着手手前ニ組合員総会ニ於テ決定スベシ
第八條　組合員ノ生産スル繭ハ特殊事情ナキ限リ、共同販売ヲナスモノトス
第九條　本組合事業施行ニ関シテハ、毎年一月組合総会ニ於テ之ヲ決ス
第十條　組合員ハ、各自年々金五十銭以下ノ範囲内ニ於テ資金ヲ支出ス　之ヲ本組合ノ基本金ト定ム

　役員氏名（設立當時）
　　組合長　千葉第三郎　副組合長　稲部養吉　幹事　千葉命治郎　千葉夘助　千葉長太夫
　　蚕種視察員　千葉善作　稲部平太郎
　蚕業教師ハ大正二年第一回共同飼育当初ヨリ本郡金澤村鈴木武雄氏（高山社蚕業学校出身）ヲ聘シ今日迄継続招聘シ居レリ。同氏ノ熱心ニヨリ未ダ一人ノ失敗違蚕者ヲ出サズ。


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底本：「復刻　眞瀧村誌」
　2003（平成15）年6月10日発行
発行者　眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表　蜂谷艸平
2004年3月10日作成