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第三節 村名起源
鬼死骸
往古、吾勝郷桜野荘ト云ヒ、延暦注１二十年、坂上田村麻呂、大武丸ノ賊徒ヲ退治シ、其死骸ヲ埋メ置キタル。ヨク鬼死骸トイフ。旧記ヲ按スルニ、一関、二関、三関ノ地、古ハ鬼死骸邑ノ域ニアリ、天喜注２康平注３ノ間、安倍氏ノ乱ニ関塞ヲ置クヨリ後、分チテ邑名トス（関邑略誌）。鬼死骸邑鬼石ノ井ニ作ルトイフ（鬼死骸石ノ付近ニ清水井アリ、金魚水、的場清水トテ古来名水アリ）。延暦二十年、田村将軍、大武丸ヲ討シテコレヲ埋メ、石ヲ其上ニ置ク。鬼石ノ高サ五尺、周リ三丈五尺、アバラ石ハ高一丈、周リ一丈九尺（安永風土記注４）。田村将軍ノ誅シ給フ鬼ノ石ニ化シタルナリ。田村明神ヲ祭ル邑ノ六本椚ニ鹿嶋ノ社アリ。田村神社ヲ相殿トス。彼ノ二石モ此ノ地ニ在リ（封内名迹誌注５）。
此ノ鬼石ト称スルモノ今猶存ス。鬼死骸石ハ鹿嶋神社下ノ田中ニ在リ。アバラ石ハ此レヨリ南約一町余、牧田沢水田中ニ在リ。此ノホトリニハ大石（置石様ノモノ）多カリシカ、石材ハ花崗岩ナルヲ以テ、之ヲ珍重シ、十数年前、他ニ運搬シテ用ヒラレ、今ハ名石タル鬼死骸石トアバラ石ノミ存セリ。
牧沢
藤原氏（秀衡）時代ノ牧場ナリシトイフ。後、村名トス。
真柴
明治八年、以上鬼死骸・牧沢ヲ合併シテ一村トスルニ際シテ、適当ナル村名ヲ指定セント、時ノ村長佐藤清五郎、扱所ニ出頭シ意見ヲ聞クニ、書記高橋眞道氏（山田揆一氏実兄）、真柴ト命名セン由、其ノ據ル處詳ナラズ、訪問ノ唱フル所ニヨレバ、薪（柴木）ノ産地ナレバ真柴ト命名スベシト、此クハ名ツケタルニテ別ニ深キ意味アルニアラザルト云フ。
滝沢
往古、吾勝郷荒滝ノ荘トイヒ、後、滝沢ト称ス。
本村ハ狐禅寺村トノ境ニ滝アリ、滝沢川ノ下流ナリ。高サ一丈五尺余、濶七間余、此ノ附近ニ滝明神ノ社アリキ。滝沢ナル村名ハ此レニヨリテ起リシト安永風土記等ニ見ユ。
又、岩手縣誌ニ、北上川ハ狐禅寺附近ヨリ其ノ下流ヘカケ約二里ノ間、両岸絶壁削ルガ如ク一大峡流ヲナセリ。右岸ニハ、古昔、数多瀑布アリシ痕跡ヲ存セリ。此附近ヨリ地名滝沢ト称スルヲ以テモ、其往時ヲ推想スベシトアリ。
狐禅寺
旧記ヲ按ズルニ、秀衡公御代ノ時、平泉村塩沢ト申所ニ生化ノ狐有之、往還之者迄悩シ申由、又小嶋村巻ノ鼻ト申所ニ舟渡御座候。然ルニ、俄ニ橋杯ニ化テ、通ノ者巻殺申由、御上江相聞、小付弓上手ノ者ニ仰付、右橋ヲ爲討爲落候ヘバ、則チ狐ニ罷成リ由、矢ハ細矢村江落申ニ付、夫ヨリ細矢村ト申由ニ御座候。右ノ狐ノ頭ヲ射切リ、北上川殷々流、当地、大明舞屋敷江流着申候迄ニ築籠サセ被成由、其レヨリ大明舞屋敷ト申シ、而百姓屋敷御座小然共、彌増シ無生化。
秀衡公ノ御形杯三七化テ、又ハ御番象数百人並居申候而、七狄ニ入リ申小ヘハ御番睡リ常燈モ消シ申シ付、御博士ヲ被古爲御卦占右ノ品ニ狐ノ生化ト卦出シ申由ニ付、号大明神ト御宮長床迄枝相立、別當白馬山狐禅寺ト被成置ル由、其ノ節称宣神主八乙女被召集御祭事被遊由、大秀衡公爲御遊覧舞台屋敷ニ滿幕舞台ヲ御張ラセ、御詠ノ所ノ由ニ咄伝申候。夫ヨリ舞台屋敷ト申シテ、当時百姓屋敷ニ御座候。秀衡公御休所ハ敷地ノ明神ト云ヒ申由、当時、桜木壱本御座候共、旦又右狐禅寺村何時頃ヨリ村名ト罷存ヤ。年代存不申小 云々。
元禄注６八年三月二十二日
狐禅寺村大明屋敷 弥右エ門
外士名（何レモ老人）
肝入 伝七
大肝入 二関市左エ門
左記録ノ外、考証ノ材料ナシ。サレバ村名起源モ之レニヨルニアラズヤト推セラル。
眞瀧村
明治二十二年、町村制施行ニ際シ、村会ニテ村名ヲ議定スルニ当リ、真柴村、滝沢村、狐禅寺村、外ニ一関村ノ白崎（三関）ノ合併村ナレバ、其ノ頭文字ヲトリテ、真狐滝村ト命名スベシトノ議アリシカド、此クテハ呼ヘニクキ嫌ヒアレバ、眞瀧村トスベシトテ此ヲ命名シタルモノナリ。
〈附記〉
「三関一ノ名ハ前ニ記スルガ如シ。「白崎」ハ則チ当時ハ千葉内膳ノ居城白崎城ノ地ナレバナリ」
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注１：延暦元年（七八二年八月一九日）～二五年（八〇六年五月一七日）
注２：天喜元年（一〇五三年一月一一日）～六年（一〇五八年八月二八日）後冷泉天皇
注３：康平元年（一〇五八年八月二九日）～八年（一〇六五年八月一日）後冷泉天皇
注４：仙台藩が領内各村に書き上げさせた地誌「安永風土記書上」 安永二年（一七七三年）～安永九年（一七八〇年）
注５：封内名蹟誌 佐藤信要撰 庄司惣七校訂 寛保三年（一七四三年）自跋
注６：元禄元年（一六八八年九月三九日）～一七年（一七〇四年三月一一日）東山天皇
底本：「復刻 眞瀧村誌」
２００３（平成１５）年６月１０日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
２００４年３月１０日作成