迷信ハ道徳上ノ精神ヲ愚ニシテ終フ。例ヘバ暦ヲ開イテ日ノ吉凶ヲ問ヒ、人相家ノ判断ヲ信ジテ青イ呼吸ヲ吹キ、家相ニヨリテ新築ノ家屋ヲ毀チ、賣ト者ニ欺カレテ商賣替ニ損ヲナシ、方位ヲ択シテ医師ヲ取替ヘ、其レガタメニ可愛児ヲ玉無ニサセ、鬼門金神ノ祟ヲ説カレテ転宅修築毎ニ財産ヲ減シ、精霊死霊トオドサレテ坊主ノ腹肥シヲナシ、オレト云ハレテ子子ヲ有難ガッテ呑ミ、御符ト云ッテ紙屑ヲ戴キ、断食或ハ監物断ヲナシヘトヘトニナリ、狐モ祟メハ蛇モ拝シ植物ニ線香モ捧ゲレバ、賽銭モ呈スル。有益ノ時間ヲ無益ニ費シ、人ニ笑ハレ様ガ怒ラレ様ガ、馬ノ耳ニ念佛、千種萬様、其ノ迷信ノ数ハ数ヘ切レナイ。サテ然ラバ、迷信ハ如何ナル害ヲナスカト云フニ、迷信ハ人ノ性質ヲ萎縮セシメ、且ツ円満ナル家庭ノ発達ヲ障ケル。故ニ迷信ヲ増長セシムル。時ニハ恐怖心ニ基イテ独立ノ力ヲ薄弱ニシ、淫詞ヲ崇拝シテ天性ノ発達ヲ害シ、倍々愚民ノ感化ヲ及ボシテ教育ノ進路ヲ障ゲ、風俗ノ壊敗ヲ導キテ、衛生ノ衰廃ヲ誘ヒ、文明ノ発達ヲ阻却セシメテ、経済ノ運行ヲ縮メ、仁義ノ精神ヲ放抛シテ、忠孝ノ大道ヲ失ヒ、タダタダ自己現世ノ満足ヲ来サントスル。賤劣靡陋ナル根性ニサセルノデアル。実ニ恐ルベキノ至リデアル。
　見渡ス所、本村ニモ、此ノ迷信ハ中々ノ勢力ヲ得テ居ル。敢テ昔ト云ハズ、現在ニ於テ猶然リデアル。サレバ、以下、本村ニ行ハルル迷信ノ普通ナルモノヲ掲ゲ、反省ノ資トスルノデアル。以下列記シテ見様。
一、狐ハ稲荷神社ノ神使デアル。
一、正一位稲荷大明神。
一、白狐ト白専女。
一、狐ハ変化スル。（例ヘバ、美女、神巫等ニナル）
一、狐ハ人ニ魅入ル。
一、狐ツカヒ。
一、狐憑病。
一、狐ノ婚礼。
一、其ノ他多シ。
一、蛇ニ祟ラレル。
一、神使ノ蛇。
一、蛇ハ最後ニハ龍トナッテ天ニ登ル。
一、蛇ヲ殺シ又ハ半殺シノ蛇ヲ見ルト祟ラレルカラ、其ノ時ハ「自分ハ殺シタノデナイゾ。山蔭ノ座頭ノ坊ガ殺シタゾ」ト云フテ三度唾ヲカケル。
一、鼡ハ大黒天様ノ神使デアル。
一、鼡ノ食ヒカケヲ食フト、目ガ光ル。又ハネジガ出ル。
一、三毛猫ノ壮ハ魔除ニナル。
一、猫ハ年老レバ化ケル。
一、鶏ハ夜鳴キヲスルト凶事アリ。
一、鳥ノ鳴声ハ凶事ノ前凶。（俗ニ鳥ダケガ悪イト云フ気ニスル）
一、返リ花ハ凶作ノ前凶。
一、竹ニ花ガ咲クハ凶作ノ前凶。
一、蔓ニナルモノ（藤、葡萄ノ如キモノ）ヲ屋敷内ニ植エルト身代ガ成ル下ガル。
一、鬼門ニ関スルコト。之ハ転宅、縁談何事ニモ此ノ方ヲ嫌フ。
一、金、神ニ関スルコト。
一、金、神ヲ恐ロシガルコト甚シク、先ツ普請セントセハ、此ノ金神ノ廻リヲ見テ貰フガ第一デアル。
一、日ノ吉日。
　　例ヘバ、一日ノ日、暗剣殺ハ北ニ南、此ノ日此ノ方角ニ旅行シ、又、置物ハ一切禁物。佛滅ノ日ハ萬事ガ凶。先勝ノ日ハ掛合事ニヨシ。友引ニハ葬式出サズ。
一、異様ナ書畫、物品ヲ門口ニ掲出シ禍難除ケトスルコト。
一、相性トテ三世相・九星等ヲ繰ッテ見テ縁談ヲ決メルコト。
一、難産除ケ（エナギリト云フ）ナリトテ呪ヲスルコト。
一、雷獣ハ雪ニ乗テ空中ヲ駈ケ走ル。
一、目出度イ夢ハ一富士、二鷹、三茄子。
一、身ヲ切ラルル夢ヲ見レバ金ガ手ニ入ル。
一、田植、魚取リ、振舞、餅ノ夢ハ凶。
一、夜火ヲ弄ブト寝小便ヲスル。
一、火ヲ起ス時、二人デ吹キ合フト負ケタ方ハ死ス。
一、火神（荒神）ヲ恐ルルコト。
一、竈ノ神ト称スルモノヲ祭ルコト。
一、丙午ノ年ハ火事ガ多イ。
一、夜中鶏ガ鳴クハ火事アル前凶。
一、初午ノ早キ年ハ火事ガ多イ。
一、頸ノ細イ者ハ肺病ニ罹リ易イ。
一、眼尻ノ下リタルモノハ好色家。
一、眼尻ノ上リタルモノハ癇癪持。
一、眼ノ下黒子ハ泣キ黒子。
一、口ノ傍ノ黒子ハ口果報。
一、唇ノ薄イ物ハ多弁者。
一、前歯ノ透キテ居ル者ハ両親ニ縁ガ薄イ。
一、脱歯缺ケ歯等上ナレバ縁ノ下、下ナレバ屋根ニ投ゲル。
一、縮髪ノ者ハ不親切又ハ意地ガ悪イ。
一、耳朶ノフクレテ居ルモノハ福者。
一、耳朶ノ立テ居ル者ハ利巧者、智慧ガアル。
一、足袋ヲハイテ寝レバ、親ノ死目ニ逢ハヌ。
一、戸構（シキイ）ヲ枕ニシテ眠ルト病気ニナル。
一、帯ヲ枕ニシテ眠ルト、長ク夢ヲ見ル。
一、盗人ハ糞ヲシ、之ヲ盥ヲ被フセテ置ケバ、知レナイ。
一、彼岸ノ中日ニ石鳥居七ツククレバ、中風病ニ罹ラヌ。
一、菷デ人ヲマネゲバ（ウツ又ハウツマネ）狼ニ食ハレル。
一、夜中口笛ヲ吹ケバ、盗人ガ来ル。又、狼ガ来ル。
一、文字ヲ書イタ紙テ尻ヲ拭フト天神様ノ罰ガアタル。
一、小便ヲ耐エテ居ルト、淋病ニナル。
一、道中デ櫛ヲ拾エバ苦ヲ拾フ。
一、佛ニ供ヘタ物ハ男ニ食ハセルナ。食フト力ガ下ル。
一、赤飯ニ汁ヲカケテ食フト、婚礼ト葬式ニ雨ガ降ル。
一、初物ヲ食フト、七十五日生キ延ビル。
一、寒三十日、水ヲ呑メバ、風ヲ引カヌ。
一、葬式ノ時供ヘタル飯（一杯飯）ヲ食ヘバ、気丈夫ニナル。
一、朝茶ヲ呑メバ其ノ日難ヲ巡レ、運ガヨイ。
一、ヘラ増すス（年上ナル女房）ハ身代ガ持テル。
一、養蚕中、葬式又ハ其他振舞ヲスルト、養蚕ハ不結果トナル。
一、死者ハ先ツ其ノ寺院ノ門ヲ叩ク。
一、死者ニ供ヘタ飯（一杯飯ト云フ）ヲ人知レズ食フト、膽力ヲ増ス。
一、寅ノ日、夘ノ日ニ葬式ヲ出スナ。
一、男ハ二十五才、四十二才ヲ厄年ナリトテ大ニ気ニスル。
一、女ハ三十三才ハ厄年ナリト云フ。
一、厄年ニハ厄拂ヘノ呪ヲナシ、三方道（三ツ迷）ニ人知レヌ様、赤飯ノ握リ飯及御幣等ヲ藁ニテ作リシ台ニ載セテ置ク。
一、いちこ（普通オカミン様ト云フ）ノ言ヲ有難ガルコト。
一、死者アルトキハ「口ヨセ」トテ、イチコヲ依頼シ死者ノ言ヲ聞クコト一般ニ行ハル。
一、ヒミ（悪日）トテ此ノ日ハ遠方ヘモ出ズ、大シタ仕事モセズ、謹シミ居ルコト。之レハ年ノ初メ又ハ彼岸ノ頃ニイチコニ依頼シテ、先記其ノ他、死者ノ言ヲ聞キ、「何月何日ニ南ノ方ヘ行クト損金スル」「今年ハ八方フサガリデ旅行ハ勿論、別レテ事業ヲ起スハ大凶」ナドト云ハレタルヲ信ズルナリ。
一、何カ自分デ判断出来ヌコト、又ハ原因ノ明瞭ナラザル出来事アレバ、「不思議」ト云フテ、稀レ直チニ賣ト者又ハイチコノ判断ヲ乞うフコト。
一、神佛ニ供ヘタル燈明、線香等ノ中途テ消エル時ハ、神佛ノ御知ラセナリトテ大ニ気ヲモムコト。
一、旧十一月十一日ニ、一杯餅トテ家族一人ニツキ二合五勺ヅツノ餅ヲ搗キ食セバ、流行病ニ罹ラヌト云フ。


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底本：「復刻　眞瀧村誌」
　２００３（平成１５）年６月１０日発行
発行者　眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表　蜂谷艸平
　２００４年３月１０日作成