石油代替エネルギー供給技術の有効性
2-2 原子力発電

 原子力発電に関するエネルギー・コスト分析については、既に§2-5二酸化炭素地球温暖化脅威説批判第二部において、室田(前掲書)の分析結果を紹介したのでここでは繰り返さない。ここでは少し違った角度から検討することにする。

 さて、『公式』に国から発表されている原子力発電の発電単価(kWh当たりの発電原価)は、5.9円/kWh(資源エネルギー庁)ということになっている。これに対して火力発電の発電単価は6.4~10.2円/kWhである。単純に考えると、原子力発電の比重が大きくなるほど、電力会社の経営状態は良くなるはずである。
 ところが、現実には、電力会社の原子力関連の支出が、経営を圧迫していることを認めざるを得ないところまで来ている。例えば、電気事業連合会によると、 40年間の使用済み核燃料の国内再処理費用が約16兆円になるという。その内、約7兆円は電気料金に上乗せして徴収(電気料金の引き上げ)、残りの約9兆円については財源が未定であり、電事連としては、この約9兆円を電気事業へ新規参入する企業や国税からの拠出で賄いたいとしている。こうした現実を考えると、原子力発電の発電原価は、石油火力などによる利益を食いつぶして、更に足が出るというのが実態である。
 HP『脱原発入門口座』に掲載された資料によると、電力各社によって「原子炉設置許可申請書」に記載された発電単価は、10~20円/kWh程度になっている。しかし、電力販売価格が20円 /kWh程度とすれば、この程度の発電単価によって、経営を圧迫するとは考えられない。原子力発電の発電単価の実態は、電力販売価格をかなり大きく上回ると考えざるを得ない。
 おそらく、原子力発電を行うために関連する施設・設備、今後は特に核廃物の最終処分施設などを含めた、本当の意味で原子力発電の発電単価は、国が公式に発表している原子力の発電単価5.9円/kWhの数倍~十数倍に達すると考えられる。ここでは控えめに考えて、5倍程度、30円/kWh程度だと仮定する。
 火力の平均的な発電単価を8円/kWhとする。発電単価のうち、60%が燃料費と仮定する。更に、燃料以外の費用のうち、20%が発電用燃料以外の石油投入量とすると、発電単価に占める石油のコストは、
8×0.6+ 8×(1-0.6)×0.2 = 5.4円/kWh
ということになる。原子力発電も同様に考える。原子力発電の燃料費、つまりウラン燃料は工業製品であるから、ここでは特に他と区別しないものとする。
30×0.2 = 6円/kWh.
ウランの精錬工程は、大量の電気を必要とするので、もう少し高目の割合を設定しても良いかもしれない。
 ここでの推定は、かなり大雑把なものであることを考慮しても、原子力発電が火力発電に比較して、圧倒的に石油節約的である可能性は皆無である。エネルギー産出比において、原子力発電が1.0を越えることは有り得ず、ポスト石油エネルギー資源として原子力文明が成立することは理論的に有り得ないのである。

 さて、以上の試算によって、原子力発電は、同量の電力を供給するために、石油火力と同程度、あるいはそれ以上の石油を消費することが分かった。これは見方を変えると、同量の電力を供給するためには、原子力発電は火力発電と同程度あるいはそれ以上の二酸化炭素を発生することを意味している。
 以下に、本HPの閲覧者から紹介いただいた電力中研の『ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価』というレポートからの資料を示す。



 この図では、火力発電が発電量1kWhあたりに排出する二酸化炭素量は原子力発電の約35倍になっている。これはここでの試算とは全く異なった結果を与えている。このレポートにおいて、算定の裏付け資料が示されていないので、断定は出来ないが、LCAにおいて極めて重大な積み残し、それもかなり恣意的なデータ操作を行っているとしか考えられないのだが、いかがであろうか?

 さて、ここでの検討において、石油利用効率において、原子力発電の火力発電に対する優位性を示す結果は得られなかった。原子力には、核廃物という極めて毒性の高い廃棄物処分という特殊な問題が存在する。原子力に対する安全性に対する要求が高まれば高まるほど、原子力発電を運用するための安全施設への資源・エネルギー投入は増加し、したがってエネルギー供給技術として見た場合、今後ますます石油利用効率が低下すると考えるべきである。
 仮に、原子力発電が石油代替エネルギーとしてポスト石油エネルギーとしての役割を果たせる可能性があるのなら、何とか安全性を確保して利用を続けるということに多少の意義があるかもしれない。現実にはエネルギー産出比において1.0を超えることは有り得ず、石油が枯渇すれば原子力発電も利用不可能なのである。原子力発電を一刻も早く廃止することが、理論的には唯一の選択肢である。
 しかし、現実には恣意的なデータの捏造まで行って、莫大な国家支出を伴うITERの誘致を含めて原子力を維持しようという国家戦略は、理論的には核武装を想定しているとしか考えられない。

二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Apr.1,2004
最終更新日:Mar.29,2006