石油代替エネルギー供給技術の有効性 | |
2-3-2 太陽光発電
まず、自然エネルギー供給システムの最初の事例として、太陽光発電について考えることにする。自然エネルギーによるエネルギー供給システムの大きな問題 は、これを電気エネルギーとして捕捉しようと考えている点にある。既に述べたように、基本的に電気エネルギーは供給と同時に消費するものである。そこで、 時空的に不安定で、出力制御が不可能な自然エネルギーは、石油によるバックアップのためのエネルギー供給システムを残すか、あるいは巨大な蓄電システムが 必要になる。 ここでは、石油代替という意味で、主に、蓄電システムによるバックアップを前提として議論を進める。 a. 太陽光エネルギーの特性 太陽光発電の発電特性は、太陽放射特性によって規定される。まず、太陽光が地球の位置における、太陽光に垂直な単位面積あたりに供給するエネルギー量(太陽定数)は、S=1.95cal/min・cm2程度である。 S = 1.95cal/min・cm2 = 1365 W/m2 (ここに、W=J/sec,1cal=4.2J)
日本の緯度をN35°とすると、地軸の傾きを考慮した南中時の太陽高度は冬至、春秋分、夏至でそれぞれ、(90-58.4)°=31.6°、(90-35.0)°=55.0°、(90-11.6)°=78.4°になる。 南中時太陽高度 太陽定数をSとすると、南中時の太陽光の放射強度は、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ以下のようになる。
冬至 s=S×sin31.6°= 0.52S = 1.01cal/min・cm2 = 709.8 W/m2
春秋分 s=S×sin55.0°= 0.82S = 1.60cal/min・cm2 = 1118 W/m2 夏至 s=S×sin78.4°= 0.98S = 1.91cal/min・cm2 = 1338 W/m2 南中時太陽放射強度の季節変化 また、日の出から日没までの時間(D)は、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ9.65時間、12時間、14.35時間程度になる。太陽高度による放射強度の 日変化を、日の出から日没までを半波長とするサインカーブで表されるものとすると、一日に受取る太陽光からのエネルギー量は、横軸とサインカーブで囲まれ た範囲の面積として与えられる。 太陽放射強度の日変化 以上より、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ一日に受取る単位面積あたりのエネルギー量は以下の通りである。 冬至 0.52S×2×9.65÷π=3.19S = 4.354 kWh/m2日
春秋分 0.82S×2×12.00÷π=6.26S = 8.545 kWh/m2日 夏至 0.98S×2×14.35÷π=8.95S = 12.217 kWh/m2日 一日に受取る太陽光エネルギー量の季節変化 一日に受取るエネルギー量を24時間で割ることによって、見かけの平均的な単位面積あたりの太陽放射強度を求めることが出来る。
冬至 4.354 kWh/m2 日÷ 24h /日= 181W/m2
春秋分 8.545 kWh/m2日 ÷ 24h/日 = 356W/m2 夏至 12.217 kWh/m2日 ÷ 24h /日= 509W/m2 この値を第二軸に示す。 以上、太陽放射強度の時間的な変動の特性の概略を示してきた。地球の地軸が公転面に垂直な方向から約23.4degだけ傾いている結果、地球の公転運動 に伴って、太陽光の放射強度や一日に受取る太陽光エネルギー量は一年周期で大きく変動する。また、地球の自転運動によって、日の出から日没までの太陽光の 放射強度は常に変化し、日没後は0になる。 さて、これまで示した値は、地球大気の影響を全く考えず、天候の影響も考慮していない。いわば地球から大気を剥ぎ取った場合に地表で受取る太陽光エネルギーの特性を示したものである。 実際に地表の受取る平均的な太陽放射は、大気の影響による反射・吸収によって大気圏外の50%程度になると言われている。 更に、天候によっても地表に届く太陽光エネルギーは大きく変動することになる。次に示す表は、日本各地の日照時間の平年値を示したものである。
地方によって、かなり大きなばらつきがあり、また、その季節的な変動パターンも異なっているが、ここではこうした影響を無視して、平均的な値を求めてみる
と、月当たりの日照時間は157.8時間、一日あたりの平均的な日照時間は5.19時間程度になる。日の出から日没までの時間の平均値は12時間であるか
ら、この内太陽光発電に有効な時間は、
5.19 ÷ 12 = 0.4325 = 43.3%
ということになる。
(2004/06/02)
b.太陽光発電の基本性能
太陽光の利用は、太陽熱温水器によって、実用化されている。太陽熱温水器は、日照があるときに太陽光を利用して、水に熱エネルギーとしてこれを蓄熱する ものである。太陽熱温水器では、短時間の太陽光放射強度の変動や、夜間の問題は発生しない。これは太陽光という変動の激しいエネルギーを利用する上で非常 に優れた点である。詳しい分析は行わないが、石油によるエネルギー供給システムの補助システムとして有効であると考えられる。 この太陽熱温水器の延長線上で考えられたのが仁尾町で実証プラントが建設された『太陽熱発電』だと考えられる。しかし、この二者は似ている様でも決定的 に違う点がある。太陽熱発電が電力供給を行う装置であるため、供給と消費の同時性の要求が加わったことである。これが太陽熱発電システムが太陽光を利用す るシステムとしての決定的な弱点の一つである。 そしてもう一つの弱点は、太陽熱温水器が、太陽光から得た熱エネルギーをそのまま水に熱として蓄えて利用したのに比べて、太陽熱発電では、太陽光から得 た熱エネルギーを熱機関の熱源として利用し、熱機関によって運動エネルギーに変換し、その運動を更に電気エネルギーに変換するという迂回生産を行ったこと である。既に『電力化』の節で触れたように、ここに熱機関の効率の問題が生じたのである。熱として捕捉した太陽光エネルギーのうち、60%程度は発電段階 で環境中に散逸してしまうのである。 この2点に加え、反射鏡に微細な塵が積もるという、極めて当然であるが『予期せぬ』現実が更に太陽熱発電の効率を落とすことになった。 さて、そこで太陽光発電の登場である。太陽光発電では、太陽放射として得られる太陽光エネルギーを半導体を介して直接電気エネルギーに変換する装置であ る。蛇足であるが、この装置は発電装置と呼ぶよりは太陽電池と呼ぶ方が適切であろう。ここでは、慣例にしたがって太陽光発電と呼ぶことにする。 現在、実験室的な環境における太陽電池パネルの太陽光の電気への変換効率は20%を越えているという。しかし、普及品レベルでしかも屋外での厳しい環境 下における運用を考えると、せいぜい10%台の変換効率だと考える。ここでは、発電効率を15%と仮定し、太陽光の放射強度に線形的に反応すると仮定す る。 屋外における運用において、最大発電量が期待される夏至の太陽放射を想定して、最大発電能力を算定してみる。夏至における南中時の太陽放射強度は既に算定したように、1338W/m2である。大気による反射・吸収によって地表に到達する太陽放射強度はこの1/2になる。太陽電池パネルが受取る太陽放射強度は、1338/2=669W/m2である。太陽電池パネルは、この太陽放射の15%を電気に変換することが出来るので、屋外環境における最大発電能力は以下の通りである。 669W/m2 × 0.15 = 100.35W/m2
現在、住宅用に供給されている標準的な3kW太陽光発電ユニットの受光面の面積は30m2程度であるから、その発電能力は、3,000W ÷ 30m2 = 100W/m2であるから、ここでの推定値とほぼ一致している。 夏至の南中時においてにおいて、概ね100W/m2の 出力を持つ太陽電池パネルであるが、これを屋外に設置して環境中で運用する場合、天候の影響を考えなくてはならない。既に見たように、日照時間は、平均的 に見て、日の出から日没までの時間の43.3%程度である。曇天や雨天でも多少は発電できることを考慮して、日照率を50%と仮定すると、屋外における実 効効率は平均的に晴天時の50%、50W/m2と考えることが出来る。以上の検討から、野外における太陽光発電の太陽放射強度に対する平均的な実効効率は、以下のように算定できる。 50 ÷ 1338 = 0.037 = 3.7%
だいぶ前のデータであるが、日本における消費エネルギー総量は、一年間に平地に降り注ぐ太陽光エネルギーの4%程度と言われる。もし、仮にこのエネルギーを全て太陽光発電で賄おうとすれば、日本の全ての平地(国土面積の20%程度か?)を全て太陽電池パネルで被い尽くすことが必要になるのである。 ここでは、太陽光発電の平均的な特性だけを考え、時間的な変動のより困難な問題を考えていないが、このような条件ですら、太陽光発電によるエネルギー供 給システムが如何に資源浪費的なシステムであるか、明白であろう。また、これを実現することは荒唐無稽であり、不可能である。 (2004/06/03)
【補足1】 環境保護論者あるいは経済学者の中に、太陽光発電を初めとする自然エネルギー発電システムに対して、過大な期待を持っている者がいる。そこには仕事の本質を理解していないための誤解があると考える。科学技術には、無から有を生み出す錬金術は存在しないのである。 例えば、太陽光発電であれば、太陽光というエネルギーを入力して、電気を出力する。これはエネルギー形態の変換であるから、エネルギー保存則にしたがって、出力としての電気エネルギー量が入力としての太陽光エネルギー量を越えることは出来ないのである。 太陽光発電装置が炎天下に置かれれば、かなりの高温になることは誰でも理解できよう。これは太陽光エネルギーの一部が熱となり、環境中に散逸しているこ とを示している。これは、もう一つの重要な物理法則であるエントロピー増大則に従って、仕事(発電)をする系内(太陽光発電システム内)で必ずエントロ ピーが発生することを示している。系内において生産される有効な仕事は、系内で発生するエントロピー量に比例して減少する。 現在、太陽電池パネルの太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率は20%程度であるから、どのような技術開発を行おうとも、現在の発電効率が5倍になることは有り得ないのである。 現実的には、既に発電効率の改善は頭打ち状態であり、今後の技術開発による効率の改善はそれほど期待できない。巷では、新太陽電池素材の開発などが無能なマスコミによって大きく報道されているが、どのような技術開発があったとしても(当然であるが、エネルギー保存則・エントロピー増大則は技術の内容に依らない)、太陽電池パネルの発電効率が現在の2倍になることはないであろう。素人が、個別技術を論じ、過大な期待を寄せるのは誤りの元であり、金儲けをたくらむ企業を喜ばせるだけである。 仮に発電効率が2倍になったところで、太陽光発電の出力変動を無視した楽観的なケースで考えても、国土の平地面積の半分以上を太陽電池パネルで被い尽くすなどという巨大システムが、現実的に構築可能かどうか、冷静に考えるべきである。 (2004/06/04)
c.太陽光発電システムに要求される基本性能(対日変動) 前節までで、太陽電池パネル単独の基本的な性能について検討してきた。ここでは、太陽光発電を、電力供給システムとして実際に運用することについて検討 する。ここでは、エネルギー供給のうち、現在の発電によるエネルギー供給を太陽光発電システムで代替する場合を想定する。 まず、太陽光発電の発電特性がどのようなものなのか、公表されているデータを示しておく。初めに示す図は、中国電力のホームページに 掲載された発電実績の時間変動を示したグラフである。グラフのピークの包絡線はサインカーブに類似の形状を示している。太陽光発電出力をサインカーブで近 似することは妥当であろう。このグラフに示されたデータは、晴天日における発電実績と思われる。急激な出力変動は、太陽が雲に翳ったことに対応する。 次に示す図は、原子力図面集に掲載された、『太陽光・風力発電の出力変動』からの図である。快晴・曇天・雨天の発電出力のデータが示されている(ただし、曇天のデータは、8:00~15:00までくらいで、朝・夕は晴天であったようである。)。 ここでは、2001年7月24日のデータを使うことにする。グラフから読取った値なので、あまり細かい数値には信頼性は無いが、この日1日の電力消費量は、3,387×106kWh程度である。これを、仮に夏至の日照時間を想定して、太陽光発電によって供給すると仮定すると、その分布は次の図のようになる。
c-1 太陽光発電システムに要求される基本性能 太陽光発電システムそのものの規模を算定する。現在の供給電力の周波数変動や電圧変動などの発電システムに要求される電力品質はきわめて高い。また、当然電力供給量に欠損が生じることは許されない。 前掲の太陽光発電実績のグラフを見ると明らかなように、晴れた日でも、雲による太陽光発電の出力変動はきわめて大きく、曇りや雨の日では極端に出力が落 ちることが分かる。電力供給を安定的に行うこと、電力の供給欠損が起こらないことを前提にすると、太陽光発電施設の規模は、最悪の発電状況で、最大消費電 力をカバーしなければならない。前節では、太陽光発電の最大発電能力が100W/m2程度であることを示した。しかし、電力供給に欠損が生じないためには、雨天の発電能力によって夏季の最大電力需要をカバーしなければならないのである。 冒頭に挙げた太陽光発電の発電能力の実績データの雨天における値を見ると、定格出力に対して10%程度と考えられる。つまり、太陽光発電の規模を算定するには、発電能力として10 W/m2を用いなくてはならない。モデル計算のピーク発電量、370.8×106 kWをカバーするために必要な太陽電池パネル面積を算定すると、以下の通りである。 370.8×109 W ÷ 10 W/m2 = 370.8×108 m2 = 370.8×102 km2
日本の全国土面積は37万km2程度といわれるから、ちょうど国土面積の1割程度を太陽電池パネルで被うことが必要になる。 c-2 蓄電システムに要求される基本性能 太陽光発電では、日没後の発電は出来ないので、昼間に余分に発電して、これを夜間のために蓄電しておかなければならない。蓄電によるエネルギー損失を無視すると、蓄電容量は1,400×106kWh程度になる。 さて、現在蓄電システムを実際に併用している発電方式は、自然エネルギー発電システム同様に、出力調整になじまない原子力発電である。その方法は、揚水 発電システムによる水の位置エネルギーとしての蓄積である。実際に運用されていることから、大規模な蓄電システムとしては、これが最もコストが廉いものだ と考えられる。 以上から、太陽光発電によるエネルギー供給システムにおいて、夜間のバックアップ電力供給サブ・システムとして、揚水発電システムを使うものとして検討を進める。揚水発電システムに要求される最大発電能力は、日没直後であり、約162.3×106kWである。 蓄電システムの規模を算定するために、日本における既存の揚水発電のデータを以下に示す。 これによると、揚水発電所数は42ヶ所、総発電能力は14.724×106kW、揚水発電所1ヶ所の平均的な発電能力は0.351×106kWになる。 太陽光発電システムのサブ・システムとして必要な揚水発電所数は、 162.3×106kW ÷ 0.351×106kW = 462.4
つまり、太陽光発電システムを運用するためには、最低でも420(既設揚水発電所の10倍)以上の揚水発電所を新たに建設しなければならないのである。
c-3 短期変動 以上、太陽光発電を運用するための最低施設規模を算定してきた。しかしながら、これらの施設が出来ても、電力供給が安定して行われる保証は無い。太陽光 発電の秒単位、分単位の急激な出力変動をスムースに吸収して、需要側に高品質の電力供給を行うためには、更に技術的に困難な出力調整技術が求められるが、 それはほとんど不可能であろう。 (2004/06/06)
既にお気づきの方も多いだろうと思うが、こうした困難を解消するためには、太陽光発電で得た電気エネルギーは全て一旦蓄電システムに蓄積して、実際の電 力供給は蓄電システムを介して行う事が『最も現実的な方法』である。そのためには、蓄電システム、ここでは揚水発電の電力供給能力で、ピーク消費電力を賄 うことが必要になる。これによって、揚水発電に要求される発電能力は更に増大するが、太陽電池パネルの必要面積はかなり削減することが可能になるであろ う。 しかしこれは、現実的には大変なことである。つまり、全ての電力を水力発電によって供給し、水力発電に用いる水を全て太陽光発電によって供給される電気エネルギーで汲み上げるということなのである。 d.太陽光発電システムに要求される基本性能(対年変動) 前節で、日変動に対する検討を行ったが、ここでは1年を周期とする季節変動に対する検討を行う。まず原子力図面集から、一年間の電力消費の実績を示す。 ここに示された値は、一日のピーク電力消費の包絡線を示しているようである。前節で示した2001年7月24日のデータから推測すると、平均的な電力消費は、
(3,387×106 kWh / 24h)/182×10 6kW=0.775
となり、ピーク時の77.5%程度と考えられる。
一年間の消費電力を賄うような太陽光発電能力を次の図に示す。 図中の黒の実線が2001年度の一日のピーク電力消費の包絡線であり、緑と水色で着色した部分がその77.5%に対応する。図から年間電力使用量を算定すると、967.8×109kWhとなる。図中に示した太陽光発電のカーブは、a. で示した、『平均的な見かけの太陽光放射強度』に相似なカーブである。 電力消費量の実績データを原子力図面集から以下に示す。 これによると、2001年度の消費電力量は9,240×109kWhなのでほぼ妥当な推定値であろう。
図から算定すると、蓄電施設に要求される蓄電容量は、113.6×109kWh になる。ここでは、平均的な値だけ示したが、蓄電容量の大きさ(ダム式発電の平均落差を与えれば、必要な水量を算定できるので、お暇な方は算定してみてい ただきたい。)もさることながら、実際には気象の影響を考慮すれば、蓄電システムの長期的な安定運用は非常にむづかしいものになると推測される。 (2004/06/07)
e.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)
前節までの検討で、太陽光発電システムによる電力供給の代替が、途方も無く巨大なシステムになることが理解されたと考える。今更、石油火力発電による電 力供給システムとエネルギー・コストを比較するまでも無く、このような電力供給システムを構築することは技術的に不可能である。前節で示した、『電源別発電電力量の実績および見通し』の2012年度の数値を見ても分かるように、電力供給における新エネルギーの占める割合は1%に満たないの である。これは電力供給を行う当事者にとって、新エネルギーの非効率性は自明のことであって、本気で導入しようなどと考えている者はいないことを示してい る。現在の『新エネルギー導入キャンペーン』は、単なる広告塔であり、個人向け太陽光発電システムという『新商品』の需要開拓のお先棒を行政が担っている に過ぎないことに気づくべきであろう。 しかし、これまでの行き掛かり上、エネルギー・コストについて簡単に触れておくことにする。既に何度も述べているが、新エネルギーについての厳密なエネ ルギー・コスト分析を行うことは、新エネルギーを推進する者にとって墓穴を掘ることに等しいので、本来ならば石油代替を判断する段階で最も重要なはずのエ ネルギー・コスト分析が行われたことが無い。既にこの時点で、新エネルギーの有効性に疑問を持つべきである。しかし、現実にはエネルギー・コスト分析が無 いことによって、謂れのない期待感だけが増幅している。 残念ながら、新エネルギーを推進する側からの詳細なデータが無いために、積上げによるエネルギーコスト分析は不可能である。しかし、工業製品である新エ ネルギー技術であるから、生産コストに含まれるエネルギー関連の経済コストによって、間接的にエネルギー・コストを推定することは可能だと考える。 次に示すグラフは、環境省の施策総合企画小委員会による『我国のエネルギーコスト水準(H.16.3.26)』に掲載されたものである。 業種によるばらつきはあるが、高いもので7%程度というところである。実際の工業生産では、鉱物採掘段階から、輸送あるいは、何段階もの中間製品を経て 最終製品になることを考えると、ここに示された値の数倍のエネルギーコストが発生していると考えても過大なものではないであろう。ここでは、「とりあえ ず」ここに示された数値の2~3倍程度、15%~20%がエネルギー関連の費用だと仮定する。この数値に関しては、どこまでも推定値であり、異論があるこ とも承知している(信頼に足るバックデータの下に大幅な値の修正が必要であれば、是非資料の提供をお願いしたい。)が、ある程度の目安としてお考え頂きた い。 さて、大規模な太陽光発電の発電単価は、70円/kWh程度と言われている。実際には、例えば昨年大分市に建設された70kWシステムでは130円/kWh程度のものもあるが、ここではとりあえず70円/kWhを使用することにする。この場合の投入エネルギーの経済コストは、 70円/kWh × ( 0.15~0.20 ) = 10.5~14 円/kWh
石油火力発電の5.4円/kWhに比較して、2~3倍程度の石油投入が必要になる。太陽光発電の時空的な不安定性を調整するための巨大なバックアップシステムを除いた、太陽光発電システムそのものだけで比較しても、石油投入量に対するエネルギー産出比が石油火力の1/3~1/2という低い値である。太陽光発電システムによる電力供給の代替は全くの石油資源浪費に他ならない。また、太陽光発電システムが自立したエネルギー供給システムになることは有り得ないのである。 既存の電力供給システムに影響を与えない範囲で行われる、小規模な個人住宅用の太陽光発電システムの導入は、全くの自己満足であり、評価にも値しない が、とりあえずその投入エネルギーの経済コストを試算してみる。小規模太陽光発電システムでは、発電コストは幾分廉く、45円/kWh程度である。 45円/kWh × ( 0.15~0.20 ) = 6.75~9 円/kWh
小規模システムにおいても、石油火力の優位性は変わらないのである。 (2004/06/08)
f.最終評価 以上検討してきた結果、太陽光発電システムによる石油火力発電の代替は、石油資源と鉱物資源、そして何より、本来ならば生態系を育む環境として最も重要な水土を浪費する『環境破壊システム』であることが確認された。 太陽光発電を含めて、自 然エネルギーによって石油火力発電システムを代替するという構想の問題点は、繰り返しになるが、エネルギー密度が低く、電力供給に要求される安定性と生産 と消費の同時性の要請に応えられない、あるいは、そのために膨大な付帯設備が必要になることである。これは本質的な問題であり、自然エネルギーの捕捉技術 をいくら改善しても乗り越えることは出来ない。太陽電池パネルの発電効率が多少改善されたなどと言うのは、瑣末なことであり、問題の本質とはかかわり無いことである。 一方、電子部品として考えれば太陽電池は、既に実用化され有効である。電卓や電子腕時計の部品として使用価値が高く、何の公的補助を受けなくとも市場で 十分に競争力を持っている。本来電子部品として(=微弱な電力供給において)有効である太陽電池を、石油火力発電という大容量の発電システムの代替として 用いるという発想自体に無理がある。太陽電池の有効性のある分野であれば、公的補助など無くても次第に普及するであろうし、逆に公的補助によって無理な導 入を進めれば、石油・鉱物資源の浪費を招来し、環境問題を悪化させることになる。 石油代替エネルギー政策によるエネルギー供給システムに対する国家の介入を完全に排除することが、最も効率的なエネルギー供給システムの構築に有益であ る。これによって経済的に成り立たない高価な電力供給システム=石油・鉱物資源浪費的なシステム(例えば原子力発電)は、必然的に淘汰される。国家は、電 力使用量の抑制のための各種施策の導入にこそ力を傾注すべきである。 (2004/06/09)
二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より |
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更新履歴 新規作成:Apr.1,2004 最終更新日:Mar.29,2006 |
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