問題克服の処方箋 | |
§3-2-1 研究ノート市場経済による無理のないリサイクルを
おわりに 以上,使用済み飲料容器について素材別に問題点をまとめると,次のようになる。 石油で作られるペットボトルなどプラスティック容器や植物繊維で作られる紙パックなどは,一般廃棄物として完全に焼却することで,廃棄物問題は一切生じない。しかもごみ発電して再利用することもできる。このように優れた性質のある商品については,市場になじまないのに強引にリサイクルし素材化することは,金銭や資源の大量消費となり,不合理である。 鉄缶やアルミ缶は,ガス化熔融炉により他の一般廃棄物とともに焼却することで,鉄は回収され,アルミはその反応を助ける補助材となる。 ガラスで作られる飲料容器は,いかに処理しても最終的には固形廃棄物が残る。したがって,廃棄物問題を避けることはできない。そこで,この廃棄物問題の程度をゆるめるには再使用(リターナブル)が必要となる。この場合,再使用の回数が少なければ,かえって石油など資源の浪費になり,再使用しない方がよいことになる。再使用の回数は少なくとも10~20回,つまり回収率で90~95%は必要であろう。 この使用済みガラス容器を再使用するには,デポジット,賃貸,売買方式の3通りが考えられる。しかし,デポジットには無理があり,勧められない。賃貸方式は顧客が固定しているときには有効だが,一般化できない。もっとも良い方法は,かつて日本でなされていた売買方式であった。各種の使用済みガラスびんは市場経済で回っていたが,石油文明の高度化により新びんの費用が安くなり,ビールびん以外は消滅してしまった。そこで新びんに課税することで新びんの費用を高くし,ふたたび各種ガラスびんは市場経済に無理なくなじませ,再使用の回転が始めることができるであろう。この方式は化粧品や洗剤など飲料以外のガラスびんにも適用できる。 ガラス以外の素材で作る飲料容器も,すべて課税により減量させ,市場経済によるリサイクル化をうながす。リサイクルの需要を超えて発生する使用済み容器は,石油製品や植物繊維はもちろん,鉄やアルミを含めすべて完全焼却処理する。そして焼却灰やガラスくずは熔融固化する。結果として発生するのはスラグ(人工岩石)であるが,これは建設,土木事業に使うことができる。 この研究ノートは,加藤峰之の名城大学商学部卒業論文(1999年1月)に加筆したものである。 (1999年9月16日) 【校正時加筆】 本文でも指摘したが、ペットボトルは協会の引き取りが限界となり、市町村の倉庫からあふれだし、今後は野積みされるという(朝日新聞99.10.14ほか)。 注 (1)発電などの効率を比較するために用いられるエネルギー収支分析がある。これは投入エネルギーと産出エネルギーをそれぞれ計算し,それを産出投入比で表し,その優劣を比較する方法である。たとえば,原子力発電と火力発電を比較したアメリカエネルギー開発局報告書ERDA76-01(1976)がある。 これをエネルギーだけでなく,物質収支にも拡張するとLCAになる。しかし,これらの方法の欠点は,積み上げ方式であるため,関係する過程を忘れたりまたは計算不能だったりすると,産出量は大きな値となり,投入量は小さな値となる。したがって,産出投入比は見かけ上大きな値となり,分析者に誤った期待を与えることになる。 また,ある過程で製品が2種類得られるとき,原材料やその他資源をこの製品にどのように振り分けるかについて,分析者の主観によるしか方法のないことである。つまり,この分析には客観性がなく,科学とは言い兼ねる。 しかし,そのような欠陥があっても,おおよその判断をするには役立たないというわけではない。 (2)平均使用回数nと回収率rとの関係は,0≦γ<1であるから, n=1+γ+γ2+γ3+……=1/(1-γ) である。 たとえば,γ=0.5ならばn=2,γ=0.75ならばn=4,γ=0.9ならばn=10。 (3)ガラスの比重は2.5だが,ガラスの破片の集まりにはすき間があり,それを20%とすると.その比重は2.0となる。 引用文献 石弘光編『環境税 実態と仕組み』(1993年)東洋経済新報社(a) 石弘光『環境税とは何か』(1999年)岩波新書(b) 植田和弘『リサイクル社会への途』(1994年)自治体研究社(a) 植田和弘ほか編著『環境政策の経済学』(1997年)日本評論社(b) LCA実務入門編集委員会『LCA実務入門』(1998年)産業環境管理協会 大橋光雄,〈座談会〉「廃棄物とリサイクルが一体となった総合法制に向けて」ジュリスト1998 年12月15日号,No.1147,pp.32~62 倉坂秀史「我が国のリサイクル制度の課題」ジュリスト増刊1999年5月号pp.191~5 黒井尚志『リサイクルの幻想と現実』(1994)ダイヤモンド社 ジェトロ『21世紀・世界のリサイクル』(1999年) 諏訪雄三『日本は環境に優しいのか』(1997年)新評論 田中勝『リサイクル世界の先進都市から』(1998年)リサイクル文化社 槌田敦「物質循環による持続可能な社会」室田武ほか編『循環の経済学』(1995年)学陽書房(a) 槌田敦『エコロジー神話の功罪』(1998年)ほたる出版(b) 槌田敦「持続可能性の条件」(1999年)名城商学第48巻第4号pp.79~108(c) 永井進「一般廃棄物の処理責任と費用負担の在り方」環境と公害1997年4月号pp.23~30 長井寿『金属の資源・精錬・リサイクル』(1996年)化学工業日報 本多淳裕『ごみ・資源・未来』(1995年)省エネルギーセンター 松田美夜子「環境先進国ドイツの廃棄物政策前編」月刊廃棄物1997年7月号pp.44~51(a) 松田美夜子「環境先進国ドイツの廃棄物政策後編」月刊廃棄物1997年8月号pp.23~8(b) 丸尾直美他『エコサイクル社会』(1997年)有斐閣 三津義兼ほか『環境にやさしい包装』(1994年)日刊工業新聞社 安田八十五『ごみゼロ社会をめざして』(1993)日報 吉野敏行『資源循環型社会の経済理論』(1996年)東海大学出版会(a) 吉野敏行編『最新ごみ事情Q&A』(1998年)東海大学出版会(b) 吉田文和『廃棄物と汚染の政治経済学』(1998年)岩波書店 寄本勝美『政策の形成と市民』(1998年)有斐閣 問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より |
|
[ホーム][環境問題][問題克服の処方箋][ゴミ問題] [前頁] | |
更新履歴 新規作成:Mar.6.2009 最終更新日:Mar.12.2009 |
|