問題克服の処方箋
§3-2-1 研究ノート市場経済による無理のないリサイクルを

4 リターナブルシステムに戻すための方策


4-1 リサイクルは市場経済で
4-2 容器新品税
4-3 ワンウェイ容器追加税
4-4 ごみの有料化も有効


 前節において,飲料容器の再使用をおこなう方法として,デポジット方式,賃貸方式,売買方式の3つの方式があることを示し,これを比較検討した。
 結論として,デポジット方式には相当の無理があり,法律の整備に加えて,消費者,流通業者,生産業者の善意による奉仕と,行政の積極的介入がなければ成立しない。この方式はヨーロッパ各国で実施されているが,この善意による奉仕というキリスト教的な生活態度のない日本では期待できる制度ではない。
 賃貸方式は,生協や牛乳配達のような固定的な飲料の配達と回収がなされる場合には有効である。しかし,一般の不特定の販売店と消費者の場合にはなじまない。
 売買方式が成立するには,使用済み容器の移動がすべて取引の形をとっているので,使用済み容器の提供者や小売店,仲買に利益がなければならない。特に,この容器を使用する業者にとって,新容器を購入するよりも使用済み容器を購入して再生する方が安価になることが必要である。この問題について考察する。

4-1 リサイクルは市場経済で

 使用済み容器のリサイクルがなされるためには,他のリサイクルと同様に採算性が必要である。ところが科学技術の向上により容器の原料や加工費が安くなる一方,回収や洗浄などに高価な人件費を必要とするリサイクルでは,この採算性を得ることが極めて難しい。そこで多くの環境経済学者は,採算のとれないリサイクルを進めるためには消費者,行政,企業の負担で逆有償による強制的リサイクルが必要と主張する(たとえば,植田a p.50)。
 しかし,この経済学者たちの考え方は正しくない。経済学には希少資源ということばがある。すでに述べたように資源は需要よりも少ない供給で定義され,需要を超えて供給された物品は資源ではなく,自由財(free goods)という。ここで自由とは誤訳で,実は無料の財という意味であるが,無料では資源ではない。廃棄物から回収されたリサイクル物品も資源であるためには,この条件を満たす必要があり,供給は需要よりも少なくなければならない。この条件を満たしていれば,回収された有価物は商品であって,金銭と交換されることになる。
 ところが,物品と同じ方向に金銭が移動する逆有償(負の価格)では,この物品は商品ではなく廃棄物であり,この金銭は手数料である。この点で,豆腐業者からおからを回収して加工した養豚業者に対する廃棄物処理法違反事件で,「無償で牧畜業者に引き渡されている」として,これを産業廃棄物とした最高裁の判断(1999年3月)は古典的な経済学の原則のとおりである。無償では有益な資源ではなく,逆有償ではなおさらである。
 以前は古紙や金属など多くのリサイクルで回収された物品が,有用であって一時期は採算がとれたのに,現在は採算がとれなくなっている。それはリサイクル運動により過剰に回収して,供給が需要を上まわり,自由財にしてしまったからである。その原因は,リサイクル運動や市町村のリサイクル行政にこの過剰供給を調節する能力がないからである。それなのに,逆有償でリサイクルせよと一部の経済学者たちはいう。これではますます過剰供給をひどくしてしまう。
 リサイクルも資源の供給であるから,採算がとれなければ(儲からなければ),それ以上のリサイクルをしてはいけない。つまり,すべてのリサイクルは市場経済の範囲内でなされるべきである。したがって,この資源供給の活動はこれにより生活する商人にのみ許され,市場経済の原理の働かない善意の素人や税金投入による市町村はリサイクル活動に参加してはいけない。
 このように市場経済以外の方法ではリサイクルをしないという制限をつけることにより,飲料容器のリサイクルにも,かつて存在していた以下のような利点が復活することになる。

①,使用済み飲料容器の発生者の責任と権利が明確になり,汚染者負担つまりPPPまたは公平の原則が達成され,この使用済み飲料容器に関係のない市民の負担はなくなる。

②,飲料容器の利用業者が,この容器を再使用する立場で容器の共通化や軽量化など容器の開発に取り組み,また飲料容器の製造業者にこれに応える姿勢が生まれる。

③,企業努力と競争により,再使用の費用の削減と処理技術は向上するだけでなく,市場経済によって消費者,販売者,製造者の利益が適性に分配されることになる。

 そこで,この原則に反する容器包装リサイクル法は廃止しなければならない。そして,市町村の税金を使ったリサイクル事業も禁止する必要がある。庶民の善意のリサイクル運動も困った存在である。善いことをしているつもりで,社会の混乱を引きおこしているからである。
 しかし,この消費者の善意の運動については全体主義的な禁止をしてはいけない。その間違いを理解してもらうことにより,善意の行為の対象をリサイクルという経済行為ではなく,弱者への福祉や汚染物質からの安全などの非営利活動に変えてもらうようにお願いする。
 これにより,市場経済による飲料容器の回収が復活する。そして,市町村は直営または民営により,一般廃棄物の焼却または廃棄処分のみをおこなう。



 市場経済による飲料容器の流通を図示すると図4となる。これは,図3の主流に細線で示した回収の流れを加えたものである。消費者は使用済み飲料容器を一般廃棄物として市町村に引き取ってもらうか,または,①小売店を含む回収業者に売る。回収業者は,②使用済み容器を利用業者に売ってもよいし,③素材化業者に売ることもできる。この回収過程はすべて有償で取引される場合のみ進める。有償でない場合は無理にリサイクルせず,事業系廃棄物または一般廃棄物として焼却または廃棄処分する。

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4-2 容器新品税

 この市場経済の条件が満たされることにより,それぞれの当事者にとってリサイクルは義務ではなく,利益となる場合にのみおこなわれることになる。現在ビールびんが再使用されているのは,この条件が成立しているからである。日本酒びんが再使用されなくなったのは,この条件が崩れたからである。
 そこで,ビールびん以外の日本酒などのガラスびんでも,この条件を回復させる方策を考える必要がある。また,現在税金により市町村が負担する廃棄物処分の費用をその発生者の負担とすることも必要である。
 このふたつの目的を同時に達成するには,新品の飲料容器に対して,焼却または廃棄物処分の費用に相当する税金を課すことである。これにより,使用済み容器に使用価値を発生させればよい。このようにして,この使用済み容器の市場経済的流通が成立することになり,同時に公平の原則が成立することになる。
 リターナブル容器であってもいずれ最終的には廃棄物となるのだから,新品であればこの税の対象とする。塩素を含む容器包装を使用する場合,これを焼却するには,ダイオキシン対策をした焼却炉が必要になるのであるから,この費用もこの税に加える。
 これにより飲料容器を利用する業者にとって,新びんを購入する費用に比べて回収びんの方が安価であるという条件が確保できる。この税金は目的税として,使用済み飲料容器を廃棄処分する実績を考慮して全額を市町村に交付する。この飲料容器新品税は廃棄物処分費用の前払いであるから,罰金ではない。



 そのようにすると,図5で示すように,再使用による利益が発生するので,各種容器でリターナブル方式は成立することになる。この利益差は、当初は,容器利用業者の収入となるであろうが,いずれ市場経済により消費者,小売店,仲買人など関係者にも適正に配分されるようになる。
 ところで,この方法では,ワンウェイ容器の使用を直接禁止したり制限したりしていない。飲料容器を利用する業者が,この容器新品税と次に述べる高額の政策的追加税を払ってもワンウェイの容器を使いたいというのであれば,許されることにする。
 輸入業者についても同様で,飲料をびんごと輸入する場合には新品のワンウェイ容器を使用するものとして課税する。この課税を避けたければ,飲料のみを輸入し,再生びんを日本で購入して詰めればよい。これにより,緑色ワインびんカレットの山の問題は消滅することになる。
 容器新品税を新設すると,税金の二重取りになるという問題が発生する。つまり,廃棄物の処理費用として市民から市町村税を取っているのに,さらに企業からも税金を徴収するのかという問題である。
 二重取りの問題は廃棄物処理費用としての交付金に相当する額だけ市町村税を減額することで解決できる。また,形式的には企業から税を取ることになるが,それは価格に反映して消費者が払うことになり,すでに述べた市民と消費者が同じでないという問題は解決することになる。
 素材化可能容器については,新品容器の中に占める回収素材の割合によって課税額を決めることになる。たとえば,アルミ缶の場合,現状では約1/3の免税となる。
 このようにして売買方式の条件がすべての飲料容器について成立すれば,以前の日本のように飲料容器のリターナブルシステムは実行できることになる。そして,これは飲料容器だけでなく,化粧品や洗剤などその他のガラスびんにも,無理なく採用されることになり,廃棄物の量は大幅に減ることになる。飲料びんとその他のびんの形と大きさをそれぞれの業界で定めれば,混同することはない。

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4-3 ワンウェイ容器追加税

 以上の措置により廃棄物処分は適正化され,ワンウェイ容器とリターナブル容器の間の不公平はなくなるので,リターナブル容器は復活することになる。しかし,これでは公平になったというだけである。高級日本酒やびんに詰めてから熟成させる高級ワインなどのワンウェイ新びんを減らすことはできない。そこで,高額のワンウェイ容器税の追加が必要となる。これは,政策による差別化であって,一種の罰金である。
 これも,容器を製造するときにかける税金であって,回収・再使用ルートの整っていない飲料容器やその他の容器が対象になる。その税額は,高級ワインや日本酒の例でみられるように内容物の価値が高いので新しい特別な容器の使用を必要とするのであるから,業者希望価格に対する従価税とし,その課税率は政策的に決めることになる。これは容器新品税とは違って目的税とはせず,酒税と同じ一般歳入とすべきであろう。このような課税制度により,大衆の飲料容器については企業は経済的メリットに誘導されて,リターナブル容器に転換することになる。同様の税はノルウェー,デンマーク,フィンランドですでに実施されている(石a pp.121~52)。

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4-4 ごみの有料化も有効

 ごみの減量化のためのごみの有料化が提案されている。廃棄物処分費を前払いする容器新品税に対して,ごみ発生と同時に処分費用を支払うのが有料化である。ごみの排出が有料であるとリターナブル化することは,飲食店のビールびんの例ですでに述べたとおりである。金銭を払って廃棄するよりは,無料でも回収してくれる方を望むからである。まして儲かるのならばなおさらである。
 ところで,多くの論文では,このようなごみの有料化による消費者へのごみ減量の動機づけばかりが論じられている。しかし,それよりも小売および製造業者の間での商品競争の発生に注目すべきであろう。
 小売業者は,消費者の動向に敏感に反応する。ごみの有料化が実現すれば,ごみになることの少ない商品の方がよく売れるようになる。売上を確保するには,ごみにならない商品を揃えることが鍵となる。
 ごみの有料化は,ほとんどの場合,指定ごみ袋の導入という形をとっているから,ごみの容積を小さくすると安くなる。そこで,消費者はつぶせたり,砕いたりできる容器を選ぶことになるから,小売店もそのような商品を並べることになる。たとえば,鉄缶やペットボトルよりはつぶせるアルミ缶,またアルミ缶よりは袋入りが棚に多く並ぶようになる。さらに,ごみにならないリターナブルびんが好まれるようになる。
 このような小売業者の動きは,飲料製造業者にも影響し,できるだけ小さくつぶせる容器や持ち運びの楽なリターナブル容器の開発をうながし,その回収システムを作ろうと努力することになる。これをしない業者は企業間競争に不利になるからである。
 しかし,現状のような市町村規模でのごみ有料化では効果はほとんど期待されない。多くの商品は全国規模で生産されるので,特定の市町村で効果があるとしても,そのような変更には費用がかかるから,飲料製造業者に対する動機づけは発生しない。したがって,有料化は法律により全国規模でなされることが必要となる。
 ごみ処分の有料化は,ごみ処分事業を市場経済化させることになる。いわゆる民営化である。これにより市町村は直営のごみ処分事業から解放され,適切にごみが処分されているかどうかを監督する行政に専念できる。これまでは,実際に作業する者と監督する者が同一であったため,不適切なことがなされていても,放置されてきた。
 ごみの有料化に伴う問題として,不法投棄の増加が指摘されている。すでに述べたように,所有権の放棄は現状では簡単であって,他人の権利を著しく侵害しない限り誰にも妨害されない固有の権利である。不法投棄といっても,多くの場合「著しく」とまではいえないことが多いから野放しされることになっている。
 しかし,法律または条例による有料化は不法投棄を減らす重要な条件である。それは廃棄物処理を有料とすることで所有権の放棄の手続きを決めることになるからである。
 したがって,有料化の法律または条例には,所有物の処理費用を違法に節約する経済犯として厳しい罰則をつけ,不法投棄を取り締まることが可能となる。
 現状で試験的に採用されている各市町村の有料化条例では,この違反に対する罰則がなく,またはあってもきわめてゆるいものであるから,不法投棄となってしまう。
 飲料容器の場合,上述した市場経済によるリターナブル化が進められるならば,使用済み飲料容器は有価物であって正当に売れば利益が得られるのであるから,ごみの有料化に伴う処罰を受け高額の罰金の必要な不法投棄をする者は少なくなるであろう。
 ところで,ワンウェイ容器追加税は事前に払う罰金に相当するから別として,ごみ発生の事前に払う容器新品税とごみ発生と同時に払う有料化を両方とも採用すると,税金の二重取りという問題を生ずることになる。これに対して使用済み容器にはごみ袋を別にして有料化しないという方法も可能であるが,これでは廃棄を誘導することになる。
 そこで,容器新品税と有料化のどちらかにするかの判断が必要となる。しかし,容器新品税も有料化もどちらも共に有効な施策であるから,二重取りであることをあえて断って実施するという方法も可能であろうが,たとえば新品税とごみ有料化をそれぞれ半々にすることでもこの問題は解決できる。

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問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.6.2009
最終更新日:Mar.12.2009