環境問題とエネルギー政策 | |
3. 環境問題とエネルギー政策
これまで、石油代替エネルギーについて主に自然エネルギーの工業的な利用について検討してきました。ここでは人間社会が利用する工業的なエネルギー一般について、環境問題という視点から検討します。 (1) 核エネルギー路線の破綻 (2) 『クリーンエネルギー』幻想 (3) 工業的エネルギー使用量の増大が気象に与える影響 (4) 工業的エネルギー使用量削減への政策転換 (1) 核エネルギー路線の破綻 石油代替エネルギーが検討されることになったまず第一の理由は、工業生産が拡大するのに伴って顕在化してきた石油資源の偏在する産地からの供給の不安定 性(例えばオイルショック)、あるいは将来的な石油埋蔵量の絶対量の限界(=石油の枯渇)に対処するために、新たなエネルギー、それも枯渇しないエネル ギーを手に入れようという目的からです。 日本ではこの目的を達成する長期計画として、原子力発電を導入し、続いて高速増殖炉を導入することによって「核燃料サイクル」を実現し、さらに熱核融合炉を経て、最終的には太陽光エネルギーによるエネルギーの自給と永続的なエネルギーを手に入れようと構想しました。 個別の技術に関してみると、原子力発電は現在エネルギー供給を行っています。しかし、運転を行うためのシステム全体を維持するためには、莫大なエネル ギー(主として石油起源のエネルギー)と資源の投入が必要だということがわかり、石油資源節約につながるかどうか怪しい状態です。しかも、スタートしたと きに積み忘れた大きな問題としての核廃物の処理の問題が現実の問題として重くのしかかってきています。特にチェルノブイリ原発事故以後、核に対する安全性 の問題は社会的に認知され、今後核廃物の処理に対する安全性の要求はますます高くなることが予想されます。核廃物を安全に環境から隔離するためには非常に 長期間、大量の資源とエネルギーの投入が必要になります。これを考慮すれば原子力発電のエネルギー収支はほぼマイナスになる(投入エネルギー量>産出エネ ルギー量)ことは確実です。近い将来、原子力発電はエネルギー供給システムとして淘汰されることは必然です。同時に、高速増殖炉・熱核融合炉についても、 実現の可能性はありません。 2) 『クリーンエネルギー』幻想 石油代替エネルギーが検討される第二の理由は、環境問題の顕在化にあります。石油をはじめとする炭化水素燃料の燃焼に伴う二酸化炭素の排出が問題にされ ています。具体的には、二酸化炭素が温室効果ガスであり、その大気中の増加が気温上昇をもたらし、環境に重大な悪影響をもたらすという理由です。 この二酸化炭素による地球温暖化「脅威」説は、環境問題を考えるとき、問題を単純化しすぎています。まず根本的な問題として工業起源の二酸化炭素の増加が気温上昇の「主要」な原因かどうか現段階では科学的に立証されていません。実測データからは、むしろ気温上昇が海水面温度の上昇をもたらし、結果として二酸化炭素の増加を引き起こしている(ヘンリーの法則)と見るほうが説明に無理がないように見えます。 二酸化炭素の増加による温室効果の影響が大きいと考えられる中緯度から高緯度地域(低緯度熱帯地域では主要な温室効果ガスである水蒸気量が多いため二酸 化炭素の増加による温室効果の影響が相対的に少ないと考えられる)の気温上昇が、生態系を破壊するような砂漠化や、氷床の溶け出しによる海面上昇をもたら すというのも仮説の段階です。 寒冷地の気温上昇は水循環を活発にし、逆に生物環境を豊かにする可能性があります。また、極地方の気温上昇は水の蒸発を促進し、降水量(雪)が増加し、降雪によって氷床は逆に発達する可能性が高いと考えられます。 更に、大気中の二酸化炭素濃度が増加することは、植物の光合成反応を促進し、農産物の単位収量の増加をもたらすでしょう(例えばビニールハウスでは、石 油を燃やして温度を上昇させるとともに、二酸化炭素濃度を上げて収量の増加を図っている)。適切な水管理によって、水循環を活発にすれば、二酸化炭素の増 加はむしろ生物環境を豊かにする可能性があります。 思いつくだけでも二酸化炭素による地球温暖化「脅威」説には多くの疑問点があり、これを短絡的に石油代替エネルギー論に結び付けている論理は、砂上の楼閣と言ってよいでしょう。それよりも問 題なのは、二酸化炭素による地球温暖化「脅威」説によってエネルギー問題を解釈することで、「二酸化炭素を出さない」⇒「クリーンなエネルギー」⇒「環境 に良い」という図式を盲信し、本来環境問題の根本的な原因である過度に工業生産に依存した人間社会についての議論をなおざりにしている状況です。その結果、環境問題を解決しつつ、同時に持続的な経済成長を実現するという、机上の空論が信じられています。 (3) 工業的エネルギー使用量の増大が気象に与える影響
工業的なエネルギー使用量の増加と、工業生産量あるいは工業製品の利用の増加とは、強い正の相関関係にあると考えられます。つまり、工業的なエネルギー の使用量は工業生産規模を反映していると考えられます。工業化の進行(≒工業的なエネルギー使用量の増加)は都市化の進行を伴います。都市化によって、急 激な植生の変化が起こります。森林や草原や農地が消滅して、舗装路や建築物に替わることで地表の様相が一変します。上下水道網、都市ガス配管、地下鉄など によって地下の構造も大きく変化します。また、人口や生産設備の集積によって単位面積あたりの工業的なエネルギーの使用量が急増します。 都市化(≒工業的なエネルギーの局所的な集中利用)を気象に与える影響という側面から捉えると、様々な問題が考えられます。例えば、 ・地表面の太陽光反射率や吸熱特性の変化に伴う太陽光エネルギー収支の変化 ・乾燥化による蒸散などの水循環の変化に伴う熱収支の変化 ・工業的なエネルギー起源の廃熱の増加 更に周辺地域において、都市に必要な水を収奪的に供給することによって地下水の減少や乾燥化をもたらしていると考えられます。 近年の気象現象に対する大気循環モデルによる数値実験から、局所的な気象条件の変化(熱収支、水循環など)が地球の全体気象に与える影響は予想以上に大 きい事が明らかになりつつあります。エルニーニョという南米大陸沖の海水温の数度の上昇が、遠く日本の気象にまで影響を及ぼすことを見れば容易に想像がつ くと思います。 工業化が進み都市が形成され、工業的なエネルギーが高密度で使用されることによって局所的な大きな熱源が形成され、同時に乾燥化による水循環の変化や太 陽光反射率が変化することによって、地球の大気循環が急激に変化し、不安定・非定常化することが予測されます。都市部では、既に単位面積あたりの工業的な エネルギー消費量が太陽光から供給されるエネルギーの数十%にまで達しています。これが近年頻発している異常気象と何らかの関係がある可能性があります。 工業的なエネルギー消費量の増加が気象に与える影響はそのエネルギー資源が石油であろうがメタン、水素であろうがあるいは自然エネルギー起源の電気であ ろうが区別はありません。どのような『クリーン』なエネルギーであっても、最終的にはそのほとんどは廃熱として大気中に放出されます。 これまで、エネルギー問題が取り上げられるとき、その目的は工業生産の増大に伴うエネルギー供給の不足をどうするかという文脈で語られてきました。ま た、環境問題が顕在化してきた後は、増大するエネルギー需要をまかないつつ、しかも環境負荷を減らすにはどうすべきかという捉え方をしてきました。 しかし、環境問題という視点から考えると、このいずれの考え方も妥当性を欠いています。環 境問題から見た工業的なエネルギーの問題とは、既に使用量そのものが地球環境を不安定化・非定常化させるのに十分なレベルにまで増加していることです。更 に、その結果として豊富に供給されるエネルギーによって行われる過度の工業生産活動からの廃物による汚染の蓄積、自然環境の改変、それによる生態系の物質 循環の撹乱が問題の本質です。工業的なエネルギー供給能力が既に過大であることが問題なのです。 この問題は石油エネルギーを自然エネルギーをはじめとする『クリーン』なエネルギーで代替することでは解決出来ません。逆に、自然エネルギーによる石油代替は、投入される単位資源量当たりの産出エネルギー量の低下をまねき、結果として資源の消費を加速することによって環境問題を更に悪化させると考えられます。 環境問題を改善するには、基本的には工業生産を縮小して工業生産に対する依存度を低くし、工業的なエネルギーの使用量を削減するという、至極当然な方法で解決する以外にないと考えられます。 (2001/03/07)
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更新履歴 新規作成:Feb.9,2009 最終更新日:Mar.13,2009 |
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