二酸化炭素地球温暖化脅威説
§2.地球温暖化脅威説

 地球の平均大気温が上昇することが生態系にとって悪影響をもたらすという、いわゆる『地球温暖化脅威説』は、果たして自明なことなのであろうか?脅威説の主要な主張は以下の二点に要約される。

①地球の平均気温の上昇は異常気象(旱魃や大雨など)を増加させ、生態系に悪影響を及ぼす。
②氷河の減少、海洋水の膨張によって海面上昇が起こり、低地が水没する。

 以下、この二点について検討する。

2‐1 温暖化が異常気象を頻発させ、生態系に悪影響を及ぼすか?

 まず、異常気象とは何なのかを概観しておく。異常気象について、その定義を朝倉正氏の著書1)から引用しておく。

「それぞれの地点において、月平均気温や月降水量が過去30年間あるいはそれ以上にわたって観測されなかったほど平年値から偏った場合」。あるいは、数学的にいうと、月平均気温が正規分布する場合は「月平均気温の平年値からの偏差値が標準偏差の2倍以上偏った場合を異常高温または異常低温」、「月降水量が過去 30年間のどの値よりも大きいあるいは小さい場合、それぞれ異常多雨、異常少雨」という。

というものである。単純に考えると、数学的には、平均値からの偏りが2S(Sは標準偏差とする)を超える確立は約5%である。これは、同じ地点で月平均気温を観測すれば、少なくても2年間に一回以上は異常高温あるいは異常低温が観測されることを意味している。呼名とは裏腹にありふれた出来事なのである。朝倉氏は1911年から1980年の間に起きた異常気象の発現回数について前掲書の中で次のように述べている。

・・・日本全体で見ると、漸増傾向は認められるものの、統計的に有意といえるほど、いちじるしく増加しているのではない。北海道や東日本では増加傾向、西日本では減少傾向なので、異常気象が最近ふえているかどうかは、地域を指定しないことには、ひと言でふえているともへっているともいえない。

 温暖化脅威説で言われている、旱魃や豪雨の頻発という、おそらく平年値からの3Sを超えるような現象を、高々30年という短期間の観測データを母集団とする統計値でしかない異常気象と関連させて語ることには無理がある。


根本順吉著「超異常気象」185頁

 これに対して、根本順吉氏は、著書『超異常気象』2)の中で、気候の体制の変化を伴うような現象、統計的には3Sを超えるような偏りを持つ希現象を「超異常気象」と定義している。統計的には、超異常気象の発現は数100年、数1000年、場合によっては数万年以上に一度という現象もしばしば観測される。
 気象現象の平年値とは、わずか30年間の観測データを母集団として、それを10年間一定値を使用してきた。高々30年間のデータによる統計を元に、統計的に数100年、数1000年、あるいは数万年以上に一度起こる現象と言っても、それは「ただ異常な現象である」と言えるだけで、その物理的な背景については何も語る能力はない。数万年前といえば前氷河期の真っ只中であり、現在とは「気候の体制」が全く異なっている。
 超異常現象が発現する背景には、近年の常態としての準定常的な気候現象や長期的な気候現象の傾向ではない、何か極めて特殊な物理的な原因があることを示唆していると考えられる。そういう意味で、『地球温暖化説』で言う1970年以降の気温の上昇傾向は、現在の気象統計には既におり込み済みであるから、この気温の上昇傾向が超異常気象の原因とは考えられない。もし仮に、最近旱魃や豪雨など自然災害を含む超異常気象が頻発しているという事実があるならば、統計的な解釈ではなく、物理的な背景を論じた上でその原因に言及しなければならない。

 では、実際に知られている気温変動を歴史的な記録から概観する。

槌田敦著「新石油文明論」50頁

 この表は、花粉分析から過去8000年にわたる気温変動を推測した結果を示す。●は温暖な時期を示し、○は寒冷な時期を示す。これを見ると、温暖な時期と寒冷な時期が交互に出現していること、温暖な時期の継続期間は近年になるほど短くなり、逆に寒冷な時期の期間は長期化する傾向が示されている。前回の寒冷な時期には、1645~1715年頃までの約70年間、太陽黒点が消失してしまう(=太陽活動が不活発)マウンダー極小期が観測されている。

槌田敦著「新石油文明論」50頁

 この温暖期と寒冷期の間の遷移は、通常言われているよりもはるかに急激な温度変化を伴って起こっていることが次第に明らかになってきている。

槌田敦著「新石油文明論」52頁

 温暖化脅威説において、しばしば前世紀中の気温上昇率 0.4~0.6℃/100年は、自然には起こりえない急激な気温上昇と言われているが、上図を見る限り、歴史的にはこの程度の気温変化はごく普通の出来事として経験してきたことであり、100年間で3~4℃の変化さえ稀な出来事ではない。温暖化脅威説の言う、「近年の温暖化傾向が自然には起こりえない急激な温度上昇であるから、これは人為的な原因による」という主張は全く根拠がない。

 気温は短期的にかなり急激な温暖化・寒冷化を繰り返しつつ変化しており、太陽活動の消長を一因として、地球の気候システムがこれを変換して観測されていると考えられるが、気温の変動機構の詳細は今のところよくわかっていない。過去の記録から帰納的に言えることは、気温は過去8000年間、変動しつつしだいに寒冷化しており、その中で温暖な時期は次第に期間が短くなり、逆に寒冷な時期は長期化しているという事実である。

 では、歴史的にみて、温暖期と寒冷期のいずれがより人間社会にとって脅威的な被害をもたらしてきたのかを『新石油文明論』3)から概観する。
 古代4大文明は、いずれも縄文前期温暖期に農耕文明として成立した。いずれも肥沃な大河の流域において温暖な気候の下で農業生産が活発に行われたためである。古代文明の栄えた8000~4000年前にかけては前掲の古気温曲線からも現在よりかなり温暖であったことがわかる。その後古代文明は、過度の灌漑、乾燥農法、そして過放牧によって水循環を破壊し、更に低温化傾向が重なって没落し、現在はいずれも砂漠化している。これは今日においても重要な歴史的な教訓である。
 3500年前にはギリシャ文明が成立したが、3200年前には古代文明と同様に農地・森林の荒廃と寒冷化、更にドーリア人の侵入によって一旦崩壊したが、その後2600年前には温暖化によって再び回復して地中海に版図を拡大する。
 ローマ帝国は西暦100年以後の寒冷化で植民地からの穀物供給が減少して衰退し、西暦300~600年頃にヨーロッパではフン族に押されたゲルマン民族の大移動があり、ローマ帝国は侵略された。
 西暦1200年代、小氷期初期には蒙古族がヨーロッパから中国・朝鮮にかけて南方への侵略を行った。日本ではこの時期には寛喜飢饉(1230~32年)、正嘉飢饉・正元飢饉(1257~59年)が発生した。
 西暦1500~1900年、小氷期後期には、ヨーロッパではペストの流行、度重なる戦争、アイルランドの大飢饉(1845年)が発生した。日本では、天明飢饉(1782~87年)、天保飢饉(1834~38年)が起こった。
 このように歴史的に見ると、温暖期には農業生産が好転して文明は栄え、寒冷期には飢饉が頻発し、北方民族の南下圧力による侵略戦争が起こっている。
 近年の旱魃や豪雨による農業生産の被害は、温暖化による異常気象というよりも、古代文明の衰退と同様の過灌漑や乾燥農法、過放牧と生態系の回復速度を超えた過剰な焼畑による農地の疲弊という側面が強い。

 一般に、温暖化は水循環を活発にし、農作物の栽培適地が拡大するものと考えられる。これは、既に見てきた歴史的な事実とも符合する。現在の間氷期では、約6000年前に気温の最高の時期を迎え、その後長期的に低温化が続いている。近年観測されている温暖化傾向はむしろ農業生産に対して好条件になると考えられる。この温暖化が、古代文明さえ経験したことのない超高温期をもたらす場合は別として、数℃の温度上昇が生態系や農業生産システムに脅威的な被害をもたらすという温暖化脅威説は全く根拠のないものである。
 現段階で重要な問題は、温暖化による『異常気象』という気候システムの変化ではなく、古代文明同様、石油文明下における、かつてない規模・速度で進行する世界的な森林の破壊、過灌漑・乾燥農法・過放牧による農地の破壊・沙漠化、焼畑による森林の消失という、人間社会の直接・物理的な生態系の破壊を如何に食い止めるかである。

1) 朝倉正著 岩波現代選書『気候変動と人間社会』(1985年,岩波書店,149頁)
2) 根本順吉著 中公新書『超異常気象』(1994年,中央公論社)
3) 槌田敦著 『新石油文明論』(2002年,農山漁村文化協会)

2‐2 温暖化によって氷河が減少し海水位が上昇するのか?

 前節で述べたとおり、温暖化は水循環の活発化につながることは事実であろう。具体的には水の循環速度が速くなり、降水量の増加につながると考えられる。勿論、低緯度地域の山岳氷河の一部は後退することが考えられる。しかしながら、海水位の上昇につながると考えられる陸地に固定されている氷河の大部分はグリーンランドと南極にある氷河であり、全体の9割以上に及ぶ。北極海に浮かぶ氷や、大陸周辺部の棚氷の融解は海水位の上昇には結びつかない。
 前述の通り、温暖化による水循環の活発化は、高山や寒冷地においては降雪量の増加として現れる。氷河が拡大するか後退するかは冬季に蓄積された降雪が夏季にどれだけ融解するかという収支バランスによる。比較的低緯度のグリーンランドでは、臨海部で氷河の減少が観測されているが、内陸部の広範囲にわたって氷河の厚さの増大が観測されており、全体として平衡状態にあるように見える。南極大陸においては、大陸の大部分において一年中氷点下であり、周辺部における氷河の後退も見られない。南極では明らかに氷河は増加傾向にある。富山国際大学の石井吉徳教授(元国立環境研究所長)の運営するサイト「国民のための環境学」の中で、次のように述べられている。

グリーンランド中心部の氷が、毎年厚くなっている(2002-4-22)

 NASAによれば、グリーンランド中心部の氷は毎年厚くなっており、一方周辺部では薄くなっているという。これは地球の温暖化傾向により、地球表面から水分蒸発量が増えるが、グリーンランド中心部では平均気温が零度以下のため、それが雪となって降下するからである。これを薄くなっている、と見出しを書くと世間に全く違って伝わる。
 序でながら、同様のことが南極でも起こっている。しかし南極大陸では縁辺部の氷は、過去20年間、後退していないことが、我が国の石油公団の調査から分かっている。地球環境の実態は、冷徹な科学の眼で視る必要がある。



 このように、数℃の温度上昇によってグリーンランドや南極の氷河が著しく後退して海面上昇につながる可能性は今のところ全くの空論に過ぎない。
 海水位の上昇についてのもう一つの論拠である海水の温度上昇に伴う体積膨張に簡単に触れておく。温暖化によって海水は表面から熱を受け取る。液体は下から加熱されると対流によって熱は液体全体に輸送されることになる。しかし上から加熱された場合は対流が起こらず海水温の上昇は表層の限られた範囲にとどまると考えられる。仮に水深200mまでが影響を受けるとしても、体積膨張による海水位の上昇は数cmにとどまる。海水温の上昇はむしろ蒸発量の増加につながるものと考えられる。温暖化脅威説で主張されているような顕著な海水位の上昇はこの点からも考えられない。

 以上、温暖化脅威説の前提となる、温暖化が生態系に脅威的な悪影響を及ぼすのかどうか、あるいは顕著な海水位の上昇を引き起こすのかという2点について検討してきたが、現段階ではいずれの主張にも明確な科学的な根拠は認められない。




二酸化炭素地球温暖化脅威説批判 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より
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更新履歴
新規作成:Mar.19,2008
最終更新日:Mar.13,2009