第六節 祝儀振舞
本村ニ於テ普通行ハレル祝儀振舞ハ、婚礼、孫振舞(初孫ノ時)、快気振舞(病気平癒ノ時)旅行振舞(はばきぬぎノ振舞)年祝、収穫祝(秋振舞)等アリ。尚此ノ外ニ、新宅祝、入営除隊等ノ祝行ハル。
以下、其ノ祝儀振舞ノ慣例方法等ヲ記述スベシ。
一、婚礼
一般ニ早婚ニシテ、男子ハ一五・六才、女子ハ一三・四才ニ行ハレタリシガ、今ハ男子ハ二十才、女子ハ十七・八才前後ナリ。尚早婚トイワザルベカラズ。
配偶者ノ選択ノ権ハ父母ニアリテ、婚配者ハ、唯父母ノ命ヲ諾スルノミ。ソノ選択ノ状ハ、主ニ財産・血統ニシテ、癩病・ナゴ・フダイ等ヲ悉ク忌ミ嫌フ。「馬ニハ乗リテ見ヨ、人ニハ添フテミヨ」トテ、一種ノ試験結婚トモイフベキカ。
然レドモ、多クハ、ソレニヨリテ異存ナシ。近時、教育ノ進歩ニヨリ漸次カカルコトヲ以テ満足セザルヤウナリツツアリ。 婚配ヲナスニハ媒酌人アリテ媒介ヲナス。古来、『媒介ハ七駄片荷ノウソヲツク』トカ『七足片アシノワラズヲハク』トカ『ヒキツケ、仲人』トカ云ヒテ、相方ノ間ニヨロシキヤウノ話ヲイヒ、大イニ奔走盡力シ、コレヲ一種ノ名誉トシ、仲人ヲ一生ノ間ニセザルモノハ「蛆虫」トナルナドノ例言アリ。
愈々縁談整フレバ、先ズ「小ざけ」ナルモノノ取交シヲナシテ、両方ノ約束トス。約一升位ノ酒ヲ貰主ヨリ先方ニ贈ルニ、仲介人ヲ以テス。ソレヨリ吉日ヲ撰ビテ婚礼ノ式及披露ノ宴ヲ催ス。婚礼ノ節ハ「結納」トテ、貰主ヨリ衣服(男子ナレバ羽織、袴、袷等、女子ナレバ袷、綿入、化粧等)等ニ目録ヲ添ヘテ贈ル。當日ハ、仲人ハ夫妻共多イニ両家ニ至リテ盡力ス。先ズ貰主方ヨリ正客(親類)及両親(見参トイフ、アルコトモアレバナキコトモアリ)、ソノ他附添ヒノ客(多ク系統近親ナルモノ)、婚配者、仲人(母ハ馬ニ乗ル)ニ導カレテ先方ニ至リ、仲人ノ媒介ニヨリテ、馳走ヲ受ケ、配人ト共ニ前同様ノ客ニ送ラレテ帰ル。
帰宅後、結婚ノ式ヲ挙グ。種々式次第ヲ異ニスルアルモ、多クハ両客ノ初対面ノ挨拶終レバ、結婚ノ「三ツ盃ノ取交シ式」アリ。
床ノ間ニハ、高砂ノ軸物ヲ掛ケ、鶴亀ノ飾リノ島台ナルモノヲ座敷ノ中央ニ置キ、ソノ左右ニ男女ヲ対座セシメ、先方ヨリ来リタル結納客、正座ニ着キ、下座ニハ嫁方ニ男ノ子、聟方ニ女ノ子、司会者ト並ブ。三ツ盃ニソレゾレ酒ヲ注ギテ取交シ、謡曲「縁むすび」ヲウタイテ式終ル。而シテ、愈々披露ノ宴ニ移ル。宴席ハ、先方ノ両親又ハ正客ヲ正座トシ、順次、両方ノ客ヲ交互ニ居並ブ。宴ハ謡曲、高砂ノ初メヨリ両客ノ間ニテウタヒ交サレ、収メノ盃ノ取交シヲ以テ終ル。
ソノ間ニ、新郎、新婦ハ媒介ニ導カレテ退席、「床入」ノ式アリテ終ル。翌日ハ「里見」トテ、新夫婦打揃フテ里方ニ至リ、両家ニテハ、老人タチヲ呼ビテ披露ノ宴アリ。間々三日目ニ、村内有力者ノ招待披露アルコトアリ。
〈附〉婚礼ノ儀式ニハ、両家共、一生一代ノ儀式トテ多額ノ金ヲ用フ。間々1ヶ年ノ収入以上ヲ、コノ一回ニ用フルコトアリ。嫁ノ身支度ハ、ソノ衣服トイヒ調度品トイイ、殆ンド一生用フルスベテヲ用意持参ス。コレガタメ「娘三人持テバ身代ハナクナル」トノ語アリ「小糠三升モタバ聟ニナルナ」トタトヘアリ。如何ナルコトカ。婚礼ノ日ニハ「申ノ日」(サル意カ)、「寅ノ日」(寅ハ千里ノ藪ヲ一夜ニ帰ルト)ヲ用ヒズ。
二、孫振舞
初孫ノ生レタル時ソノ一週間目ニ両家ノ近親者ヲ呼ビテ祝フ。コノ風、維新前迄ハ必ズ行ワレタル模様ナリシガ、今日ハ稍々ニ廃シテ中流ノ者ニテモ行フ者少ナキニ至レリ。
三、快気振舞
長ラクノ病気ヲナシ快復セル時ニ行フ。兄弟ソノ他近親者並ニ世話ニナリタル人々ヲ呼ブ、時ニ氏神神楽等ノ奉納アリ。
四、はばきぬぎ(旅行披露宴)
重ニ伊勢参宮ノ後、同行者及近親者ヲ呼ブ。
五、年 祝
男ハ二十五才、四十二才、六十二才、女ハ三十三才ニナレバ、此ノ年ヲ祝フトテ、近隣ノ人々、「入レダル」トテ酒肴ヲ持参シ、ソノ家ニ至リテ當人ヲ正座ニ据エ赤キ手拭テ被ラセ祝フ。元来、コノ年ハ厄年ナルヲ以テ、當人ハ二度門松ヲクグリテ、ソノ年ノ去ルヲ意味シ、厄ナキ様祝フモノナルベシ。
六、収穫祭(秋祭リ)
秋季稲ノ収納後、「神楽」ナドヲタテテ祝フ。
七、新宅祝
新タニ本屋ヲ建テタル時ニ行フ。落成後、親族朋友ソノ他、工事ニ預リシ人々ヲ招待シテ祝フ。
八、入営又ハ除隊祝
男子適齢合格、入営ノ時及満期除隊帰宅ノ際、行フ。
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底本:「復刻 眞瀧村誌」
2003(平成15)年6月10日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
2004年3月10日作成