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　　第一章　沿革

　　第一節　陸奥ノ沿革

　古来、陸奥ノ蝦夷或ハ陸奥ト云ヒシ一部ナリ。陸奥トハ東道ノ奥区ト称スル意義ナリ。　明治元年、陸奥ヲ割キテ、磐城、磐代、陸前、陸中、陸奥ノ五国トナセシヨリ、ソノ北端ナル一国ヲノミ陸奥ト称スルニ至レリ。今、古代ヨリ現在ニ至ルマデノ沿革ヲ記述スルニ當リ、地理史、時期ヲ分ッテ七期トス。

　一、国造ノ治　　二、国司ノ治　　三、守護ノ治　　四、世襲守護ノ治　　五、戦国割拠ノ治　　六、封建ノ治　　七、郡縣ノ治（王制）

　第一期　国造ノ治

　上古ノコト草昧ニテ知ルベカラズ。又、考證ヲ得ルニ道ナシ。崇神天皇^注１ノ御代、四道将軍ヲ置カレタリシモ（道トハ国ノ義ナリト古書ニアリ）、ソノ治下タリシコトヲ考證スル道ナシ。
　景行天皇^注２ノ御代、初メテ日本武尊ノ東征アリテ、東北ノ各国史ニ見ユル日本武尊ハ、本縣ノ南部ニモ入ラシナカラン故ニ、醜賊掃蕩ノ遺跡ト称スルモノ處々在リ。然モ、後世、好事家ノ捏造説ニシテ信ズベクモアラズ。『国史ニ見ユ即チ東夷反ス。皇子日本武尊ヲシテ之レヲ討タシム。皇子、上総ヨリ海ニ航シ転ジテ陸奥ノ境ニ入ル。賊風ヲ臨ンデ帰降ス』ト尊ノ入ラセ給イシハ、今ノ磐代国ノ中央以南ナル事、史家ノ論ズル所ナリ。是ヨリ先、武内宿禰日高見ノ国奏上アリ曰ク、『東夷ニ日高見国アリ。風俗勇悍ニシテ土地肥沃ナリ。収メテ以テ朝廷ノ用トナスベシト。』盖し、日高見ノ国ハ陸前ノ国ノ平原地方ニシテ、陸前及膽沢ノ地水沃ニシテ日高見神社アリト云ヘトモ、果シテ日高見ノ国ハ其地ナリヤ否ヤハ論断スル能ハザル所ナリ。成務天皇^注３ノ世国縣ヲ分チ、里ヲ定メ、充恭天皇^注４ノ世、国境ニ標ヲ造リ給ヘリト。国造本紀ニ国造ノ数百四十四トアリ、當期本地方ハ治者ナク蝦夷住居シ、酋長政治ノ下ニ生活セリ。

　第二期　国司ノ治

　畿内諸道ノ境域ヲ定メ、国司、郡司ヲ置キ、大宝ニ至リテ七道ノ名見ユ。茲二於イテ、国郡ノ制大ニ完備シタリ。国郡ノ分合モ甚シカリシ。

　當期ノ初メニ於テ、大野東人、紀古佐美、大伴弟麻呂、坂上田村麻呂等ノ東征アリ。田村麻呂ハ前後、紫波城、膽沢城ヲ築キテ、防備ヲ厳ニシ、達谷ノ夷酋・悪路王ヲ勦滅セリ。其後、陸奥ノ国司アリテ治メシモ、土豪ノ勢強大ニシテ、屡々良民ヲ掠メ朝貢ヲ欠ク。天喜^注５・寛治^注６年間ハ陸奥土豪ノ勢最盛ナリシ頃ニシテ、前九年ノ役アリテ、源頼義・義家ノ征討アリ、安倍氏亡ビテ後、平泉藤原氏強大トナリテ、清衝、基衝、秀衡三世九十余年、豪華ヲ極メ、帝京ニ擬セリ。
　大槻盤渓曽テ詩アリ。

　　　　三世豪華擬帝京　朱楼碧殿接空長

ト當時ヲ想像スルニ足ル。當時、本郡ハ平泉藤原氏ノ所領タリ。源頼朝、義経ノ威名ヲ忌ミ之ヲ討タントス。会々、義経逃レテ陸奥ニ来リ秀衡ニ拠ル。秀衡、卒シテ後、頼朝、泰衝ヲ誘ヒテ義経ヲ討タシム。奉ゼズ依テ泰衝ヲ討テ之ヲ滅ス。時ニ文治^注７五年九月ナリ。

　第三期　守護ノ治

　頼朝、藤原氏ヲ討手トシテ、総奉行葛西清重（下総ノ人）ヲシテ当地方ヲ治メシム。是レ、守護地頭制ノ濫觴ナリ。建久^注８二年、南部氏ノ始祖光行、陸奥糠部五郡ヲ食ミ、三戸郡平ヶ崎城ニ拠ル。此ヨリ先、本縣膽沢、江刺以北ハ治外ノ地ニシテ本郡ハ葛西氏ノ統治セシ所ナリ。葛西氏ハ陸前石巻日和山、寺池、岩手山等ニ館ヲ設ケ、諸部落ニ其臣隷ヲ配置シ之ヲ統治セリ。

　第四期　世襲守護ノ治

　後醍醐天皇、北条氏ヲ滅シ有功ノ士ヲ守護トナシ給ヒ、又、足利尊氏、地方制度ヲ改メテ功臣親族ヲ封ジテ世襲守護トナセリ。當期ニ於テ郡里ノ名称ハ甚シク改メラレタリ。南部師行、安倍野ニ北畠顕家ニ従ヒテ戦功アリ、八戸三十五万石ヲ食メリ。當時、陸奥ノ大半ハ南部信長之ヲ領シテ吉野朝ニ属シ、南方ノ一部・陸前ノ地ハ足利家之ヲ領シテ北朝二属セリ。
　　（備考）日形村ニアル古碑ニ北朝ノ年号ヲ用ヒタルヲ見レバ、當地方ハ足利氏ニ属シタルヲ知ルベシ。

　第五期　戦国割據ノ治

　當期ニ於テ郡郷ノ改名甚シク弘治^注９年中ニハ陸中ノ大半ハ南部晴政之ヲ領シ南方一部ハ葛西晴信之ヲ領セリ。

　第六期　封建ノ治
　
　當期ニ於テ、陸中ノ大半ハ南部晴政、依然之ヲ領シ、南方一部ハ伊達政宗之ヲ領セリ。
　之ヨリ先天正十八年、豊臣秀吉、葛西氏ノ領地ヲ没シ、更ニ木村英俊ヲ十三郡（膽沢、江刺、気仙、本吉、磐井、桃生、壮鹿、登米、遠田、栗原、玉造、志田、加美）ニ封シ、十九年正月、更ニ其ノ封ヲ蒲生氏ニ与フ。同年八月、伊達政宗ヲ封ズ。正宗ハ乃チ一族伊達兵部宗勝ヲ一関ニ封ス。天和二年、田村氏之二代ル。本村ハ一関萩荘諸村ト共二、其ノ封地タリ。而テ、平泉、厳美、中里、山目、諸村ハ宗藩伊達氏ノ所領タリキ。

　第七期　郡縣ノ治

　慶応三年、徳川氏、大政ヲ奉還シ王政復古、再ビ縣治ノ世トワナレリ。爾来、藩トナリ縣トナリ、今日ニ至レリ。


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^注１　　崇神天皇元年：　　前九七年
^注２　　景行天皇元年：　七一年
^注３　　成務天皇元年：　一三一年
^注４　　充恭天皇元年：　四一二年
^注５　　天喜：　元年（一〇五三年一月一一日）〜六年 （一〇五八年八月二八日）
　　　　　　　後冷泉天皇
^注６　　寛治：　元年（一〇八七年四月七日）〜八年（一〇九四年一二月一四日）
　　　　　　　 堀河天皇
^注７　　文治：　元年（一一八五年八月一四日）〜六年（一一九〇年四月一〇日）
　　　　　　　後鳥羽天皇
^注８　　建久：　元年（一一九〇年四月一一日）〜一〇年（一一九九年四月二六日）
　　　　　　　後鳥羽天皇　土御門天皇
^注９　　弘治：　元年（一五五五年一〇月二三日）〜四年（一五五八年二月二七日）
　　　　　　　後奈良天皇　正親町天皇
^注１０　天正：　元年（一五七三年七月二八日）〜二〇年（一五九二年一二月七日）
　　　　　　　正親町天皇　後陽成天皇
^注１１　天和：　元年（一六八一年九月二九日）〜四年（一六八四年二月二〇日）
　　　　　　　霊元天皇
^注１２　慶應：　元年（一八六五年四月七日）〜四年（一八六八年九月七日）
　　　　　　　孝明天皇
底本：「復刻　眞瀧村誌」
　2003（平成15）年6月10日発行
発行者　眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表　蜂谷艸平
2004年3月10日作成