前頁 次頁 目次 歴史 ホーム
第三節 宗教及び寺院
往古ノ事詳カナラズ。寺院開創以来ハ、村民皆、其ノ寺院ノ檀家トナリテ、敢テ他宗ヲ奉セズ。徳川幕府、切支丹宗ノ蔓延ヲ懼レ、禁制厳重ナルニ及ビ、官ハ檀那寺ナルモノヲ定メ、其ノ寺ニ附随セシメ、毎年正月誨日、村肝入ヲシテ宗門改帳ヲ作成セシメ、人民ヨリ誓書ヲ取リ、又、檀那寺住職・村肝入等請證人トナリテ、宗門改帳ニ連判シ、毎年二月朔日、御上ヘ差出シ、決シテ他宗ヲ奉ゼザル旨誓ウニ至リテ、タトヒ佛教ト雖モ檀那寺以外ノ宗旨ハ奉ズルコト能ハザルニ至レリ。（尤本村ニハ切支丹宗ノ入リタル形蹟無シ）。
本村内檀那寺ハ全部曹洞宗ニシテ、外ニ一寺、法華宗長昌院アレドモ、本院ニハ檀家一戸モナク、随テ深ク法華宗ヲ奉ズルモノモナカリシナリ。
真宗ハ敢テ本村内ニ寺院又ハ僧侶ノアルニアラザリシガ、其ノ布教宜シキヲ得タルニヤ、勢力侮ルベカラザルモノアリキ。即チ「隠シ念佛」ト称シ、人知レズ夜間等ニ於テ説教読経ヲナセルモノナリ。維新後ニ於テモ、三関部落ニテハ、明治二十五・六年頃ハ盛ニ奉ゼラレタリ。
此クノ如クナレドモ、村民ハ元ヨリ大ナル信仰ノ式ニ帰依シタルニアラズ。唯々勧誘ニ應ジテ加ハレルニ過ギズ。サレバ、曹洞宗ノ勢力ハ依然トシテ衰エズ、今日ニ於テハ、真宗モ廃シテ全部ソノ寺々ニ帰依スルニ至レリ。維新後、種々ノ新宗教宗旨等行ハレ、信仰モ自由ニナリタルト雖モ、習慣ノ然ラシムル所カ、将又、村民ノ宗教心ニ薄キガ故カ、敢テ他宗ノ伝搬ヲ見ズ。
唯、一時行ハレタルハ天理教ナリトス。即チ、明治二十七・八年頃、天理教ハ一関町ニ支部ヲ設置シ、盛ニ勧誘手段ヲ講ズルニ及ビテ、醇朴ナル而シテ迷信深キ農民ハ、之レニ引込マルルニ至レリ。然レドモ、全然天理教ヲ信ジタリト云フ者、全村民中十名内外ニ過ギズ。其ノ後、自ラ覚醒スルアリ。又、一関支部ノ衰頽スル等ヨリ、今日ニ於テハ一人ノ信者モ無キニ至ル。
今、本村ノ檀家区別ヲ掲グレバ、
曹洞宗 正洞院 鬼死骸全部
曹洞宗 願成寺 一関町 牧沢全部
曹洞宗 常光寺 三関全部
曹洞宗 光西寺 狐禅寺全部
曹洞宗 長寿寺 滝沢全部
現在ハ、正洞院廃止トナルヲ以テ、鬼死骸ハ全部、曹洞宗瑞川寺ノ檀家トナリ、他ハ旧ノ如シ。
明白山常光寺 曹洞宗（四等法地）在三関
當寺ハ本郡金沢村宝持寺ノ末寺ニシテ、天正三年四月、葛西家臣・白崎城主千葉内膳ノ造営スル所宝持寺第四世奪関宗与大和尚ノ開山ナリ。堂宇ハ文化ノ頃火災ニ罹リ燒失セルヲ以テ、文化癸酉六月、再建セリ。現今ノ堂宇ハ、即チ之レナリ。
當時ノ記録ニ、世話人及大工ヲ掲ゲアルヲ見レバ、
世話人 菊池伝四郎 八十右ェ門 権五郎 勝之助 留蔵 彦太郎
伝吉 丑蔵 広蔵 萬之助
大工 幸右ェ門
一、本堂 間口ー六間 奥行ー四間 萱葺
一、庫裡 間口ー五間 奥行ー三間 萱葺
一、本尊 聖顴音（自覚大師作木佛座像二寸五分）
一、境内 壱段七畝八歩
一、田 参段参畝十五歩
一、畑 弐畝弐拾歩
一、山林雑地
一、墓地 九段弐拾七歩
一、檀家 四八
當寺開創以来ノ世代、左ノ如シ。
當寺開山 奪関宗与大和尚
第二世 安叟誾泰大和尚 慶長元年九月十七日
第三世 良室清達大和尚 慶長十五年七月二十三日
第四世 智翁察伝大和尚 元和元年八月十五日
第五世 渕日成至源大和尚 寛永七年九月十八日
第六世 不外玄了大和尚 正保三年十月十六日
第七世 大眠圓龍大和尚 寛文元年二月初七日
第八世 真翁戒観大和尚 元禄五年六月二十八日
第九世 甘露石門大和尚 文化十三子年十二月二十七日
第十世 青山慧月大和尚
第十一世 智山禅鏡大和尚
第十二世 鉄山祖中大和尚
第十三世 鶴林霊樹大和尚 効果元年甲辰八月二十六日
第十四世 秀岳棟芳大和尚 明治十四年旧六月十七日
第十五世 玉應大鱗大和尚 明治二十二年旧十二月十日
第十六世 徳宗慧明 （現世）
鶏頭山光西寺 曹洞宗（四等法地）在狐禅寺
當寺ハ、本郡一関町願成寺末寺ニシテ、後、花園天皇永享十年八月二十八日、願成寺第二世梵西和尚ノ開山ニカカル。
往古、本村宿屋敷（無阿彌陀ト云フ所）ニ天台宗狐禅寺アリ。藤原秀衡公ノ建立セラレタルモノナリ。藤原氏滅亡ノ後ハ、往寺粗中、絶廃寺同様ノ姿ニアリシヲ、永享十年、即チ願成寺ノ隠居寺トシテ再興シ、曹洞宗鶏頭山光西寺ト改称セルモノナリ。
堂宇荒廃甚シキヲ以テ、延宝ノ頃、堂宇ヲ改築建立セリ。（旧記後出参照）
然ルニ慶長ノ頃、火災ニ罹リ宇燒失シ、久シク假屋ノ儘ナリシガ、文政元年七月、第十四世物外孝道大和尚並ニ肝入佐藤孫右ェ門ノ盡力ニ依リ、當山寺内杉百本賣上金百七十切ヲ土台トシテ、檀家施金ヲ以テ、本堂ヲ建立セリ。棟梁ハ本郡高舘源太夫・枝幸郡黒石村佐惣治ノ二人ナリ。同四年、造作全部落成ス。文政五年ニハ小野寺栄蔵ノ盡力ニ依リ、庫裡ヲ建立セリ。棟梁ハ上黒沢村幸助ナリ。
一、本堂 間口七間半 奥行六間半 萱葺
一、庫裡 間口六間 奥行三間半 萱葺
一、本尊 阿弥陀如来 座像三尺（台座共） 木造 自覚大師作
一、木像 正顴音 作者不詳
一、木像 薬師如来（明治四十三年届出デハ、之レヲ本尊ト記セリ）
一、梵鐘 径弐尺壱寸
當時ノ梵鐘從前アリシモノハ、肝入千葉十内、正徳年中ニ奉納セル径壱尺六寸ノモノナリシガ、破損シテ用ニ立タザルニ至リシヲ以テ、明治三十五年二月、之レヲ改鋳シテ二箇ノ半鐘ヲ作リ、一ヲ狐禅寺小学校ニ、一ヲ當寺ニ備ヘタリ。
現在ノ梵鐘ハ、明治三十五年二月、小野寺揆一、木村忠蔵ノ二氏、発願主トナリ、檀家一般ヨリ寄進ヲ募リ奉納セルモノナリ。
鋳造者ハ山形市宮町原田穂積ニシテ、金二百五十二円九拾七銭五厘ヲ要シタリ。
一、境内 八畝弐拾歩
現ニ境内内ニ生育シアル杉ハ、本堂建築ノ際、吉左ェ門両人ノ植立寄進シタルモノニテ、大小約五十本アリ、大ハ廻リ七尺内外ニ及ブ。
一、田 五段九畝拾弐歩
一、畑 壱町弐段参畝九歩
一、山林雑地 九反八畝弐拾九歩
一、墓地 五段八畝弐拾四歩
一、檀家 壱百五拾戸
一、薬師如来堂
當薬師如来ハ、明治二十二年、第二十五世知嶽孝順大和尚、中里村ヨリ遷シ、堂宇建立シテ祀リ、而シテ薬師講ヲ組織シ今日ニ至ル。堂ハ五尺四面亜鉛葺ナリ。
當寺再興開創以来ノ世代左ノ如シ。
開山 来用梵西和尚大禅師
第二世 堅叟栄固大和尚
第三世 嶽室鳥臣大和尚
第四世 明岩宗珠大和尚
第五世 功山建忠大和尚
第六世 文外寅藝大和尚
第七世 春山師範大和尚
第八世 梅山茎芳大和尚
第九世 琴同慧文大和尚
第十世 膏天良順大和尚
第十一世 補天錬石大和尚
第十二世 大眞英隆大和尚
第十三世 大峯全勇大和尚
第十四世 物外孝道大和尚
第十五世 桃岳隆芳大和尚
第十六世 機輪良関大和尚
第十七世 大洲山大和尚
第十八世 瑞天秀道大和尚
第十九世 傑岑大雄大和尚
第二十世 天然慈運大和尚
第二十一世 大円佛海大和尚
第二十二世 大満禅明大和尚
第二十三世 大海賢涯大和尚
第二十四世 廊應慈仙大和尚
第二十五世 智嶽孝順大和尚
第二十六世 東光羽嶽大和尚（現世）
醫王山長寿寺 曹洞宗（四等法地）在滝沢
當寺ハ江刺郡黒石村正法寺末寺ニシテ、後小松天皇應永十五年、葛西家臣・下黒沢城主黒沢相模、堂宇ヲ造営シ、正法寺第三世・虎湲和尚ノ開山ナリ。
堂宇広壮、庫裡ノ外、長屋山門等ヲモ建設シ、稍ニ完備セルモノナリシニ、天保十一年十月十九日、一宇燒失シテ現今ハ未ダ再建ニ至ラズ、假ニ粗造狭小ナル客殿ヲ建テ、別ニ庫裡ヲ備フ。
検断役・蜂谷寛蔵ノ覚帖ニ、長寿寺燒失ノコト、當寺長寿寺昨十九日明六ツ時頃出火ニ相成客殿ヨリ火出デ庫裡長屋御開山木像、今上皇帝御位牌、不及一切燒失ニ相成候事。
天保十一年十月九日 検断役蜂谷寛蔵記
一、假客殿 間口五間 奥行弐間半 木羽葺
一、庫裡 間口九間 奥行五間 萱葺
一、本尊 薬師如来
一、境内 九段壱畝参歩
一、田 四段八畝壱歩
一、山林 八反歩
一、墓地 弐町四段壱畝弐拾壱歩
一、檀家 百六拾壱戸
當寺開創以来ノ世代、左ノ如シ。
開山 虎湲良乳大和尚
第二世 仲山良用大和尚
第三世 金堂妙菊大和尚
第四世 儀庵妙順大和尚
第五世 壽雲良椿大和尚
第六世 嶺林良鷲大和尚
第七世 虚窓良芭大和尚
第八世 源庵良悦大和尚
第九世 観室良盛大和尚
第十世 一翁體仲大和尚
第十一世 喜州観関大和尚
第十二世 杦庵切存大和尚
第十三世 盛峯宗栄大和尚
第十四世 観山遠察大和尚
第十五世 時用民瑞大和尚
第十六世 日山智慧大和尚
第十七世 得庵禅髄大和尚
第十八世 観鳳寅察大和尚
第十九世 燈外百明大和尚
第二十世 清愽法輪大和尚
第二十一世 官州禅苗大和尚
第二十二世 定山宗厳大和尚
第二十三世 海運禅瑞大和尚
第二十四世 捴雲大隼大和尚
第二十五世 梅挙文舒大和尚
第二十六世 圓桂宗芳大和尚
第二十七世 臣海素法大和尚
第二十八世 鉄道祖心大和尚
第二十九世 徳厳祖高大和尚
第三十世 耕雲泰順大和尚
第三十一世 善明津導大和尚
第三十二世 聖山則道大和尚
千刈山正洞院 曹洞宗（廃）在元鬼死骸
當院ハ、本郡一関町願成寺ノ末寺ニシテ、永禄十年、願成寺ノ隠居寺トシテ同寺第九世沢翁和尚ノ開山ニカカルモノ。鬼死骸邑ヲ檀家区域トス。明治四年五月七日ノ夜、何者カニ放火セラレ、堂宇・記録・本尊其他一切、烏有ニ帰シ、以後、再建ノ資力無ク、終ニ廃寺トナル。依リテ、檀家一同、瑞川寺ニ付ク。
当時ノ旧記ニ、
明治四年四月七日夜、鬼死骸正洞院ヘ悪者三人押入リ、住寺並ニ尼ニ疵ヲ負ハセ候ト、
明治四年五月七日ノ夜正洞院燒失ト
一、本堂 間口六間 奥行四間半 萱葺
一、庫裡 間口□□ 奥行□□ 萱葺
一、本尊 釈迦如来 （木像 丈九寸六分 作者不詳）
一、境内 （文治六年虎了和尚ノ記スル所ニ據ルト、長九十五間、横六十二間、内畑トナリ居ルモノ、五段拾歩、山林トナリ居ル所、長サ六十五間、横六十二間アリ）
一、檀家 四十二戸
當寺開山以来ノ世代、左ノ如シ。
開山 沢翁等恩大和尚
第二世 軌山存大和尚
第三世 亀厳悦大和尚
第四世 良音宗大和尚
第五世 徳厳重大和尚
第六世 法輪説大和尚
第七世 葛仙虔亮大和尚
第八世 一翁黙輪大和尚
第九世 徳厳祖高大和尚
第十世 符山良護大和尚
第十一世 悟山黙宗大和尚
第十二世 佛山道輪大和尚
曹源山瑞川寺 曹洞宗（三等法地）眞柴
當寺ハ宮城縣仙台市松音寺末寺ニシテ、天正九年三月十五日、前永平松音二世・松庵賢貞大和尚ノ開山。和泉守鈴木重信ノ開基。當寺ハ初メ志太郡稲葉邑ニアリタルヲ移転セルモノナリ。當地ニ堂宇建立後、一度火災ニ罹リ（放火ナリキ）、現堂宇ハ三浦無学氏ノ盡力ニヨリ、明治三十九年ヲ以テ落成セルモノナリ。
一、本堂 間口十間 奥行九間
一、庫裡 間口七間半 奥行五間半
一、山門 明治三十九年、菅原恒覧氏ノ一千円、男爵高平小五郎氏ノ五百円、檀家ノ寄進ニヨリテ成レルモノナリ。
一、本尊 延命地蔵尊 ソノ他佛像多シ。
一、檀家 三百五十戸 當主 三十世
玉林山長昌寺 法華宗 眞柴
元文四年九月、一関藩主田村村顕公、東山奥玉邑玉林山長勝寺ノ寺跡ヲ移シタルモノニシテ（開山ヲ長昌院獨明上人ト号）、當寺ノ開山ハ、明和七年、仙台市孝勝寺智見院・日晴上人トス。
本堂庫裡共ニ田村村顕公ノ建立スル所ナリ。
一、本堂 間口四間 奥行四間
一、庫裡 間口七間 奥行四間
一、本尊 久遠釈迦 檀家ナシ
鬼子母神
此ノ像ハ、田村左京太夫痘瘡ノ折、長昌院ヨリ庭上ノ梅ヲ以テ彫刻献上セル懐胞ノ守護神ナリ。
稲荷宮
神体ハ、武州長栄山本門寺末寺・江戸下谷勧明山法養寺ニ安置致シアル正一位熊谷稲荷大明神ノ写ニテ、是モ左京太夫殿痘瘡ノ節、萱堂珠光院殿ニテ平愉祈願セルモノニテ、鬼子母神同様ノモノナリ。
題額「宝所」ノ二字、田村村顕公ノ筆ナリ。
大太鼓 径三尺三寸、一関藩主田村家ノ時ノ太鼓ナリ。
獸屍棄場
本村内ニ在ル獸屍棄場、左ノ如シ（滝沢ノ分ダケ）
田沢 鶴ヶ沢 九鬼 宮田 妻ノ神 大川原 水口 草ヶ沢 草刈場 藤 木ノ川 南沢 西ノ沢 二又沢
公葬墓地
本村ハ、面積広大、交通上ノ地理又其ノ宜シキヲ得ザルヲ以テ、屍体埋葬ノタメ葬送スルニモ其ノ附属寺・公葬地ニ遠ク、不便少ナカラズ。故ニ遠隔部落ニハ、特ニ公葬墓地ヲ設ケ、以テ葬送ニ便セリ。
柳沢公葬地（瑞川寺） 牧沢公葬地（願成寺） 二ノ沢公葬地（長寿寺） 山田公葬地（光西寺）
前頁 次頁 目次 歴史 ホーム
底本：「復刻 眞瀧村誌」
２００３（平成１５）年６月１０日発行
発行者 眞瀧村誌復刻刊行委員会
代表 蜂谷艸平
２００４年３月１０日作成