問題克服の処方箋 | |
§3-2-1 研究ノート市場経済による無理のないリサイクルを
1 飲料容器の廃棄による社会経済的影響 1-1 飲料容器の廃棄の現状 1-2 環境への影響 1-3 地方財政への影響 1-1 飲料容器の廃棄の現状 1997年度において,一般廃棄物に占める容器包装廃棄物の割合は,厚生白書98年度版によれば,容積で59%,重量で24%となっている。またそのうち飲料容器は,容積比で一般ごみ全体の8.3%,重量比で5.9%を占めている。 ところで,飲料容器は,使用回数によってワンウェイ容器(使い捨てびん)とリターナブル容器(通いびん)とに分けられる。このほか,アルミ缶などのように使い捨て容器であっても,素材として回収可能な容器がある。この回収素材にはふたたび容器を生産したり,または他の用途への利用可能性がある。この研究ノートではこれを素材化可能容器ということにする。この素材化もリサイクルのひとつとし,廃棄物を減らす方法と考えられている。 この素材化可能な飲料容器について,さまざまな資料では回収率が表示され,いかにも回収が進み,処分場へ流れる飲料容器が減ったかのように書かれている。たしかに,スティール缶では,回収率が増えた結果,その廃棄量は1990年度に比べ,95年度では半減している。しかし,それはスティール缶の総使用量が増えていないからである。 アルミ缶の場合は,回収率が上がっても廃棄量は87年から96年の10年間でほとんど変わっていない。この間,使用量が2.5倍になったからである。アルミ缶メーカーにしてみれば,より多くアルミ缶を生産し,さらに回収率を高めて操業の拡大をはかることができた(吉田p.4)ということになる。 ペットボトルにいたっては,回収率は増えているのだが,使用量はもっと増えており,結果として廃棄量は増える一方である。 そこで,一般廃棄物の減量および再生資源の利用をはかるため,1995年に,容器包装に係わる分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(通称容器包装リサイクル法)が成立し,97年から施行された。 この容器包装リサイクル法では,対象とする品目を10種類とし,これを3つに区分している。第一は,事業者に再商品化を義務づけないスティール缶,アルミ缶,飲料用紙パック。第二は,97年度から事業者に再商品化を義務づけた無色ガラスびん,茶色ガラスびん,その他ガラスびん,ペットボトル。第三は,2000年から義務づける段ボール,その他紙製容器包装,その他プラスティク容器包装である。 この法律では対象とする10種類の素材をすべて同列に扱っている。しかし,このような一律のリサイクルでは混乱を拡大するだけで,この法律の目的は達成不可能となる。廃棄物処分場へ捨てる量を減らし,資源を有効利用するには,素材の性質の違いに注目し,素材ごとにリサイクルするかしないかを含め,その扱いを考えるべきなのである。 石油で作るペットボトルや植物繊維で作る紙パックなどは,後述するように無理にリサイクルしても得るものはない。採算がとれない場合には,そのまま完全に焼却して全量を炭酸ガスと水蒸気にして大気中に放出し,その際発生する熱で発電する方が合理的である。これらの可燃性容器包装は,段ボールなどを含め,需要の範囲で良質のものだけを回収するにとどめるべきである。 残りの飲料容器のうち鉄缶,アルミ缶などは,廃棄物のまま分別せずにガス化熔融炉で完全に焼却処理する。この焼却炉は溶鉱炉技術の応用なので,鉄缶は銑鉄として回収され,アルミ缶はこの鉄を作る反応での還元材および発熱材などとして有効利用されることになる。通常の焼却炉でも,酸化鉄と酸化アルミになり,無害の灰となる。これはそのまま利用することができるが,他の有害灰とともに専用の熔融炉で熔融して無害のスラグ(人工岩石)として,土木工事に利用することができる。 アルミ素材の再生は需要の範囲でおこなうべきである。それはまとまって発生する建築廃材や廃自動車などから得ることができる。これらの多くは,現在,アルミ缶リサイクルの陰に隠れて,処分場に廃棄されるか不法投棄されている。しかも,これまで,リサイクルこそ正義と信じて,各家庭に広く分散した使用済みアルミ缶を苦労して集め,遠くの工場に運び,処理するため,石油が大量に消費されていた。資源の有効利用というものではなかった。 しかも,このようにして使用済みアルミ缶から作った再生アルミ素材は不純物が多い。その原因のひとつは缶のふたで,硬度を高めるためのマグネシウムなどの混ぜ物をしている。また,胴の部分はマンガンが多い。さらに,アルミ缶の白色塗料にチタンを使っている。それに回収作業のとき土砂が混ざる。さらに空き缶の中にごみが捨てられている。そのためこの回収アルミは,素材として良質とはいえず,その需要は少ない。 その結果,回収アルミ缶の約3分の1はアルミ缶製造の際の混ぜ物に用いられるが,残りはアルミ鋳物に混ぜたり,溶鉱炉に投入して鉄を作るための還元材として利用されている(長井p.56)。そのように利用してもこの回収したアルミはまだ余って困っている。 したがって,使用済みアルミ缶は,無理に分別回収せず,ガス化熔融炉でごみと一緒に燃やし,そのまま鉄を作る還元材として用いる方が合理的である。 このような焼却可能な使用済み容器包装を除くと,廃棄物処分場対策の必要な使用済み容器包装はガラスびんだけとなる。この研究ノートでは,主にこのガラスびんに絞って,ワンウェイびんとリターナブルびんを比較検討する。その他の飲料容器についてもこれに関連する問題があるとき,その都度論ずることにする。 TOP へ 1-2 環境への影響 一般に,リターナブル容器は,ワンウェイ容器に比べて環境に与える負荷が少ないと考えられている。しかし,実はそれほど単純ではない。 リターナブル容器は,再使用するときに水で洗うことで水質汚染をおこす。また,再使用を前提としているため丈夫な素材と構造が必要となり,結果的に容器そのものが重くなり,容積も大きくなるので,生産や流通での内容物の単位量あたりのエネルギーや資源の消費量がワンウェイの場合よりも大きくなるからである。 生産,流通,使用,廃棄のライフサイクル全体を通して環境に与える影響を評価する方法として,ライフサイクルアセスメント(LCA=life cycle assessment)がある(1)。たとえば,オレンジネクターのびんにおいて,ワンウェイびんのエネルギー消費量,大気汚染,水質汚染を100%とした場合について,20回使用のびんと40回使用のびんとの比較がなされた(三津p.14)。 エネルギー消費量,大気汚染の程度では,リターナブルびんを使った場合はワンウェイびんを使ったときの約7分の1に抑えられる。水質汚染については,再使用時に洗浄する必要があるために,エネルギー消費量や大気汚染の場合のようにはいかないが,それでもワンウェイびんを使ったときよりも2割の汚染が抑えられる。 TOP へ また,633mlのビールびんについて,さらに詳しいLCA事例研究もなされている(LCA編集委p.104)。これによれば,リターナブルびんを20回使用するとして,これはワンウェイびんに比べて炭酸ガス発生量,つまり石油などの消費量で4.2分の1,排水量で1.7分の1,固形廃棄物で8.0分の1,重油使用量で11.2分の1となる。いずれも,20分の1ということにはならないが,それでも十分に環境負荷は小さい。このことから,飲料容器のワンウェイ化が進んでいる現在,飲料容器の環境への負担が大きくなっているといえる。 しかし,図1に示されるように,回収率50~67%,つまり平均使用回数が2~3回(2)程度では,発生する炭酸ガスの量はワンウェイびんとほとんど変わらない。したがって,使用回数が少なかったり,洗浄や運搬に要する費用(エネルギー)が大きくなる場合には,再使用は必ずしもよいとはかぎらない。このことは鉄缶やアルミ缶,ペットボトルなどの素材化可能容器にも言えることである。回収率が50~67%程度では,これらを素材化して再利用することに意味はないと考えられる。 リターナブルびんとワンウェイびんの廃棄量を比較する。キリンビールのホームページによれば1997年には日本中に年間約58億本ものビールびんが出回ったという。このビールびんがワンウェイびんであったとしたら,年間58億本のビールびんが廃棄され埋め立てられることになる。この場合,1本あたりのガラスの重さは600グラム,比重2.0(3)として,この年間廃棄量は1,740万立方メートルになる。 環境白書各論99年度版によれば,95年度の一般廃棄物最終処分場の残余容量は1億4200万立方メートルであったが,もしもビールびんがすべて廃棄されるとすれば,これの約12%に相当し,単純に計算すればこれだけで8年余で満杯になる。実際には,ビールびんは20回程度使用するので,廃棄物の量はこの20分の1であり,欠陥品の素材化も考えればさらに低く,それだけ環境に貢献していることが分かる。 したがって,飲料容器の増加とそのワンウェイ化は,大気汚染などに加え,廃棄物処分場の枯渇という深刻な問題の一因となるのである。 1-3 地方財政への影響 これらの飲料容器の廃棄処分の費用は,表1に示されるように,極めて高価である。たとえば,水を入れる2リットルのペットボトルを処分場に廃棄する場合,1本あたり74円になると試算された(安田p.59)。これは市町村が税金により負担している。現在,ペットボトル入りの水2リットルは200円程度で売買されているが,もしもこの試算が妥当であれば,企業はびんの処理費用まで考えて274円で販売し,74円は廃棄物の処理費用として市町村に支払うべきものである。 現状では飲料容器のリターナブル化が叫ばれているが,これとは逆にワンウェイ容器が増加している。この増加の結果はごみ処理事業費の増加の原因のひとつとなっている。このままでは,これを負担する市町村財政が破綻してしまうとは言わないまでも,赤字がどんどん膨らんでいくことになるだろう。 逆に,すべての飲料容器を焼却またはリターナブル化すれば,市町村税の負担は軽減されることになる。94年度では,全国の市町村のごみ処理費は年間2兆 6,000億円(吉野b p.18)であり,またすでに述べたように容器包装廃棄物の容積割合は8.3%なので,20回使用のリターナブル容器とワンウェイ容器との差を比較すると,2000億円程度となる。 したがって,ワンウェイ容器をリターナブル容器に転換すると,年間2000億円の地方税が節約できることになる。これは国民ひとりあたり1700円に相当する。つまり,3人家族として5000円の地方税の減額になる。 TOP へ 問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より |
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更新履歴 新規作成:Mar.6.2009 最終更新日:Mar.12.2009 |
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