問題克服の処方箋 | |
§3-2-1 研究ノート市場経済による無理のないリサイクルを
2 飲料容器ワンウェイ化の原因と容器包装リサイクル法 2-1 ワンウェイ化の直接の原因 2-2 市町村による処分と回収作業も原因のひとつ 2-3 容器包装リサイクル法による素材回収の問題点 2-4 期待はずれの素材化可能容器 2-5 ペットボトルや紙パックは焼却が合理的 ここでは容器のワンウェイ化による廃棄物の増加の原因と消費者,企業,行政の3つの当事者のはたしている役割を考え,次に「リサイクルすれば廃棄物が減る」と単純に考えて実施された容器包装リサイクル法について述べる。 2-1 ワンウェイ化の直接の原因 リターナブルびんを衰退させた直接の原因は,ワンウェイ容器の製造費や購入費の低下であった。高度経済成長期以前は,日本ではビールびんだけでなく,酒や醤油やコーラもリターナブルなガラスびんであった。ところが科学技術の向上と自由貿易によりペットボトルや紙容器の資源が安価に手に入り,また加工費も安くなった。しかも,激しい企業間競争で大量生産,大量消費のワンウェイ容器はますます安くなった。 一方,リターナブルなガラスびんは,使用済みびんの回収を人間の労働でおこなうため,この科学技術による合理化の恩恵が少なく,費用を下げることは難しい。その結果,リターナブルびんの回収再生費用に比べて,ワンウェイ容器の製造費用の方が安くなってリターナブルびんの魅力はなくなった。 このように,リターナブルシステムが不利になった結果,リターナブルびんの取り扱い量が減り,その結果,回収業者の利益が減って,回収業者は廃業し,ますますリターナブルシステムは崩壊していくことになる。 使用済みの633mlビールびんは,以前は1本10円で小売店がひき取ったが,現在は5円となった。これに小売店が利益を上乗せして,問屋または回収業者に売り,そしてビール会社がこれを買い,洗浄して使っている。現在でも,回収びんは,ビール会社にとって新びんを買うよりも安いから,ビールびん回収の流れが残っているのである。しかし,以前は1本30円でひき取っていた酒びんはほとんど流れなくなった。このようにしてビールびん以外の日本のリターナブルびんは消えていった。 ところで,消費者がワンウェイ容器の飲料を購入しなければワンウェイ化することはないという考え方がある。消費者がもうひとつの選択肢としてのリターナブルびんの飲料を購入し,空きびんを返却すれば,ワンウェイ化にはならなかったのであるが,なぜワンウェイ容器を買ってしまうのか。それは,消費者には利便性や安全性などで優れたものを追求する性癖があるからである。 ワンウェイ容器には,軽い,清潔感,容器の処理が簡単などさまざまな優位性がある。たとえば,小型ペットボトル飲料が急激な勢いで売上を伸ばしたのは,携帯性や利便性が高いからである。手軽に持ち運べるし,落としても割れないから安全だし,一度に飲み切らなくても残りはキャップを閉めれば保存できる。その便利さが消費者に受けた。 このように消費者は,商品の選択のときどちらが安全か,どちらが便利かなどさまざまな点から総合的に使用価値を判断し,販売価格と比べてこの使用価値の高いものを選択している。これは当然の行為であって,倫理に訴えて使用価値の低いリターナブルびんの購入を誘導しても,日本では成功するとは思えない。 ドイツで実施されているペットボトルの再使用では,容器が傷だらけで汚れており,清潔を好む日本では,価格などで十分に引き付ける魅力がなければ受け入れられそうにない。一方,日本ではビールびんは今でもリターナブルである。これはガラス製品であるので傷がつきにくく,洗浄により清潔さが保てるということも理由のひとつである。 このような日本の消費者の購買行動には習慣による合理性があり,非難されるいわれはない。また,大量生産,大量消費,大量廃棄について,消費者を非難したところで改善されるとは考えられないから,そのような非難は無意味である。結論として,この問題で消費者に責任はない。 リターナブル化ができないのは,企業の責任という考え方もある。ごみ減量システム研究家の松田美夜子氏は,「日本の企業が使い捨て容器へとかわっていったのは,作った製品のあと始末,つまりごみ処理費を,自治体が全てタダで引き受けてくれたので,その方が自費で回収する『通いびん』よりも利益が大きいからである。これは企業の甘えだと思う」という(松田b p.25)。 たしかに,企業が利益を追求した結果,リターナブルびんからワンウェイ容器へと転換した。しかし,これを企業の甘えと言うのは企業の性質を無視した考えである。企業には努力して最大限の利益を追求する必要がある。そのようにしない企業は,競争社会に生き残ることができない。企業が環境保全のために利益を度外視してリターナブルびんを採用したとすれば,ごみの量は格段に減ったかも知れない。しかし,すべての企業が等しくリターナブルびんを使うならばともかく,そのような利益度外視の経営をする企業がもしもあったとすれば,その企業は競争に負けて倒産するに違いない。 それに,企業にも製品の性質を選択する権利がある。消費者に好まれない商品を企業に作らせることは不可能なのだから,消費者に好まれる商品を作って売ったことで企業を非難することはできない。飲料容器のワンウェイ化について,製造業者も販売業者も,大量生産と大量販売で利益を追求しなければ生存できないのだから,企業が悪いことをしていると言うわけにはいかない。 もっとも,社会の流れがあって,リターナブルがよいとして広まると,これを企業宣伝の道具に使い,「当社は,環境を配慮してリターナブルびんを使っています」と宣伝して,製品の販売を拡大し,利益を得ることができる。しかし,このような雰囲気が全面的に広がるのは,ドイツのような倫理観の発達した国の場合であり,日本では目覚めた一部の顧客しか確保できない。 結局,消費者の好みで商品の売れ行きが決まることになり,企業はこれに逆らうことはできないのだから,企業にはまったく責任はない。 TOP 2-2 市町村による処分と回収作業も原因のひとつ では,ごみの回収を担当する市町村に飲料容器のワンウェイ化の責任があるのだろうか。市町村は,廃棄物を処分する責任をきちんとはたしている。もしも,ここで市町村が大量に生じた廃棄物を処理しないと決めれば,大量生産や大量消費に直接歯止めをかけることができるかも知れない。しかし,それでは市町村に課せられた衛生を保持する義務がはたせないことになる。 このようにして,この市町村により使用済み飲料容器の廃棄処分がおこなわれることが,このリターナブル化を阻害するもうひとつの原因となっている。そして市町村の素材回収がこれをさらに拡大することになる。これを,飲料容器の価格構造を示した図2を用いて説明する。 容器の販売価格は,容器製造または回収再生の費用と各種費用と利益の合計である。ワンウェイ容器ではこの価格に製造から流通までの費用が反映されている。これにより,製造から流通までの資源やエネルギーの投入費,環境汚染の対策費も,この価格に入っている。 しかし,飲料容器の一生を考えると,この外に容器の廃棄・焼却処分の費用が必要である。さらにワンウェイ容器を回収して素材化するのであれば,この費用が必要である。しかし,これらの廃棄や回収の費用は市町村の負担であって,商品の価格に反映されていない。このことは,これらのワンウェイ容器を利用する企業に対して,市町村はこれらの費用に見合うだけの財政的支援をしていることになる。この点では松田氏のいう通りである。 一方,ビールびんのようなリターナブル容器の場合,ワンウェイ容器よりも丈夫にするため製造費は高くなる。そして,回収容器の価格には,回収して洗浄するなどの費用がかかる。これの合計が新容器の製造費よりも低くなければリターナブルシステムは成り立たない。そして,この回収再生の費用と各種費用と利益の合計でリターナブル容器の価格が決まる。 このリターナブル容器もいずれは最終的に廃棄物になって市町村による廃棄処分費用が必要になる。しかし,使用一回あたりの廃棄処分費用はビールびんのように20回も使用(回収率95%に相当)する場合は,十分に小さい。 ところで,回収して素材化する場合,この費用は廃棄処分に必要な費用に比べて極端に大きいことが指摘されねばならない。それは分別回収,簡易洗浄,梱包,輸送などの追加費用が必要となるからで,一般に焼却や埋め立ての方がずっと安い。そして,この費用は市町村の負担であって,莫大な補助金が業者に与えられることになる。これについてはふたたび詳しく論ずることにする。 このことから,市町村による廃棄処分または素材回収には次の4つの問題があることが分かる。 ① ビールびんなどのリターナブル容器は,ワンウェイ容器や素材化可能容器と商品販売価格のうえで公平な競争の場にはないことである。 図2に示したように,廃棄処分や素材回収の費用が価格に反映されていない分,ワンウェイ容器や素材化可能容器はリターナブル容器に比べて価格的に有利になっている。これではリターナブル容器を使用していた業者がこれを放棄して,ワンウェイ容器や素材化可能容器の使用に変更するのは当然である。 ② 市町村によるワンウェイ容器の廃棄処分は,消費者の発生者責任,いわゆる汚染者負担の原則(PPP)に反している。容器の廃棄処分に関する費用はこれを発生した消費者が負担すべきである。現状ではこれは市町村が市民の税金で負担している。しかし,消費者と市民は同じではない。 この点,OECDは,この消費者責任という考え方からさらに拡大生産者責任(extended producer responsibility)の考え方に変更して,廃棄物処理の費用負担を市町村と納税者から生産者と流通業者と消費者に移す計画で,EU理事会において承認されているという(倉坂p.193)。 ③ そもそも廃棄物を市町村が処理するのは,衛生を保持することが市町村の任務だからである。使用済みの飲料容器が散乱することはこの衛生と関係があるから市町村はこの散乱防止のための対策を講ずる必要がある。したがって,使用済み飲料容器の焼却・埋立などの最終廃棄に市町村がかかわることは必要である。 しかし.素材化可能容器を回収して.これを商品にする作業は衛生問題とは何の関係もない。しかも,素材を商品にするのであるから,それは業者の営業活動ということになる。 したがって,市町村がこの作業に税金を使用することは正しくない。その意味で,容器包装リサイクル法では市町村に素材の回収計画を立てる義務がない(吉野b p.84)のは当然である。この素材回収事業は市町村の好意でする事業ということになるが,その費用が廃棄物処分の費用よりも大きくなる場合,市町村がこの素材回収事業をすることは不適切である。 ④ 廃棄物処分場は枯渇の段階となっている。もっとも資源と廃棄物を自然の循環とつなぐことにより,廃棄物処分場は一切不必要(槌田c p.99)である。これはエントロピー論により得られる結論であるが,ここではそれを議論しないことにして,廃棄物処分場に流れる使用済み飲料容器を少なくすることを考える。 まず,①を考慮して,リターナブル容器とワンウェイ容器や素材化可能容器との間の競争を公平にする必要がある。そのためには,廃棄処分や素材回収にかかわる費用をこれらの価格に反映するシステムが必要となる。 このようにして,①の対策がなされたとしても,ワンウェイ容器とリターナブルびんが公平に扱われるにすぎない。したがって,①の対策だけではワンウェイ容器は廃棄物処分の費用を支払うことになるので,堂々と存在することができる。そこで,ワンウェイ容器に特別の制限措置をつけ加えて,使用済み容器の廃棄物処分場への流れを押さえる必要がある。 これらの対策については.第4節で詳しく述べることにする。 TOP 2-3 容器包装リサイクル法によろ素材回収の問題点 リターナブルな飲料容器を復活するには,これらのいろいろな問題を解決しなければならない。ところが,容器包装リサイクル法は,これをなし得ないだけでなく,むしろリターナブル化を妨害することになる。 ビールびんなどのリターナブル容器や素材化するための回収がなされている容器を除く飲料容器の流通経路は図3のようになっている。 この流れで生ずる廃棄物の量を減らすことを目的にして,容器包装リサイクル法が施行された。この法律は,消費者,市町村,事業者に対してそれぞれ次のような役割分担を求めている。消費者には容器包装を分別して出し,市町村には分別収集して洗浄,圧縮,梱包など中間処理し,特定施設に保管する。それを企業が受け取って再利用する。 ところが,この法律では,市町村が飲料容器の回収計画を立てた場合にはその回収と処理の責任が発生する。しかし,企業がこれを引き取らない場合には,市町村は手間と費用をかけて回収したこの容器包装を特定施設に保管せず,廃棄物として処理することになる。このことは法施行以前よりも一層の弊害が発生する。 この容器包装リサイクル法のシステムについて,政令指定都市と東京都で組織する13大都市清掃事業協議会は,①手間や費用のかかる中間処理の費用がすべて市町村の負担になっている。②メーカー側の負担が少ないため,材質を変えるなどのごみにならない製品や再生しやすい製品を作ろうとするメーカーの動きにつながらない。③びんなどの製品によっては,再商品化が遅れ,集めても引き取り手がないなどの問題を指摘している(諏訪p.312)。 そこで,東京都は,ペットボトルについて,店頭回収し,その運搬,圧縮などの中間処理をメーカーや流通業者にゆだねる東京ルールⅢをこの法律と同時に実施した。 まず,この東京ルールでは消費者が販売店まで使用済みペットボトルを運ぶことによって始まる。しかし,それはあまり期待できそうにもない。したがって,ペットボトルは可燃性ごみとして東京都が引き受けることになる。それでも東京都にとっては費用が少なくてすむ。 ところで,この東京ルールは,市町村が分別回収するというこの法律の趣旨に反している。しかし,そのようにでもしなければ市町村の負担は限界を超えているのである。この東京ルールと同じくやはり店頭回収による大阪方式や大宮方式などいろいろな試みがなされている(吉野b pp.104~9)。 これらの指摘や各地の試みをふままえ,さらに問題を深く掘り下げると,この容器包装リサイクル法には次の8点の弊害のあることが分かる。 ① この法律では,容器の製造量に比例して素材化の費用の負担が増えるので,製造業者や販売業者に過剰包装を減らそうとする動機が発生するという考えがある(田中p.67)。しかし,それよりも使用済み容器の回収と処理の責任を免除したことにより,利潤追求を目的とする企業に大量生産と大量販売を許すこととなり,使用済み容器の大量発生となる。この法律について,廃棄物処分場問題全国ネットワークの大橋光雄事務局長は「使い捨て容器を堂々と売りつづけられるような法律になっている」と雑誌ジュリストの座談会で述べている(大橋p.44)が,そのとおりであろう。 ② 一方,この法律では,一般廃棄物となった使用済み容器の全量を市町村がリサイクルまたは廃棄することにしている。つまり,この法律は大量に生産された飲料容器を市町村が大量リサイクルまたは大量廃棄することを定めた法律ということになり,市町村税による負担をさらに増加させる法律ということになる。 ③ この法律では,製造業者や販売業者に対して,使用済み容器の回収と処理の責任を免除したので,製造業者や販売業者に回収しやすくまた処理しやすい容器を作るという動機を消してしまった。したがって,これらの業者は消費者の好みに合わせて,多品種の容器をつぎつぎと開発できるから,使用済み容器の多品種発生となる。 ④ 一方,使用済み容器の税金処理のため競争原理の働かない市町村にとって,この多品種発生した使用済み容器から回収すべき素材の処理方法について専門技術を向上することはできない。ますます市町村は困り果てることになる。 ⑤ すでに述べたように,使用済み飲料容器を発生する消費者と地方税を負担する市民は同一ではない。消費者の発生した使用済み容器を廃棄する費用は,市民の拠出する税金で支払われることになる。これは発生者責任の原則に反する。 ⑥ しかし,このこと以上に,企業が利用する資源を確保するための回収作業に,なぜ無関係な市民が税金を拠出して負担しなければならないのか。これを合理的に説明することはできない。つまり,この法律にはその成立根拠が存在しない。 ⑦ また,この法律の実施により市町村は需要を超えて過剰に素材を回収することになる。そして過剰になった回収素材は,企業には利用不可能なので,市町村の所有する倉庫や置き場に溢れて,市町村による税金負担をさらに増やすことになる。 ⑧ 結局,市町村が,この法律の範囲で使用済みのワンウェイ容器を扱うには,リサイクルする方が安価か,それとも廃棄する方が安価かを判断して,どちらにするかを決めて実行し,税金を拠出する市民に誠意を示すことだけである。 容器包装リサイクル法がこのようにたくさんの問題点をかかえることになる原因は,そもそもこの法律が需要の範囲で供給される物品のみが資源であるという経済学の原則を無視しているからである。資源は需要の範囲でしか使うことはできないのだから,需要を超えて回収した素材は廃棄物でしかない。 したがって,この法律を守ることによって過剰に回収した素材廃棄物を一時貯蔵する倉庫や置き場などはまったく無意味な施設ということになる。これはまだ廃棄物ではないからこの置き場は処分場ではないと主張するだろうが,それはまやかしである。 「ごみも分ければ資源」などということばが流行し,多くの人びとは無批判にこれを使用したが,「分けたところで需要がなければやはりごみ」であると知るべきであろう。 容器包装リサイクル法をこのままにするかぎり,将来は次のようになると思われる。税収入の豊かな巨大都市の場合,廃棄物処分場の公害対策がますます厳しく廃棄物処分費用が高価となるから,これに比べ素材化事業が比較的安価ならば,この素材化を進めることになる。 そうするうちに,素材化するための分別回収事業がさらに高価で無意味であることが理解されるであろうから,この事業は中止され,結局は廃棄物処分場に流れることになる。まして,輸送費用のかかる遠方の地方都市や税収入の少ない市町村では,リサイクル事業は大きな負担となる。したがって,これを中止することになるのは確実で,公害対策を省略した簡易処分場に廃棄する道を選ぶことになるだろう。 このようにして,容器包装リサイクル法では,ほとんどの使用済み飲料容器はこれまでどおり処分場へ廃棄処分されることになる。したがって,もっと現実的な方法で使用済み容器をリターナブル化することが必要となる。 TOP 2-4 期待はずれの素材化可能容器 容器包装リサイクル法は,ドイツの制度を参考にして作ったといわれている。しかし,ドイツ方式は容器の再使用である。これに対して日本の方式は幾度も繰り返し再使用できる容器をわざわざ破砕,溶解して新しい容器を作る方式である。つまり,日本では,ワンウェイ容器でも素材化して回収すれば,廃棄物の量を減らすことができると期待し,リターナブル容器でなくともよいと考えたのである。 しかし,再使用と素材化では決定的に違う。それは,まず回収される物品に需要があるかないかという点である。再使用の場合は,定常的に飲料が供給される限り,回収して供給される容器の数は必ず需要の範囲内にある。したがって,リターナブル容器の回収には過剰問題は生じない。 ところが,素材化していろいろな方面で利用しようとしても,回収素材は元の純粋の原料よりも品質が悪いため,価格を十分に低くなければ純粋の原材料との競争に負けることになる。そして,仮に価格を低くしても,この品質の悪さによって,回収素材の需要は限られることになる。その結果,市町村が国策にしたがって懸命に回収すればするほど過剰回収となり,過剰在庫を経て,結局は廃棄物として処分されることになる。 典型的な例としては,破砕されたガラスびん(カレット)の山である。1997年度では,市町村の総収集計画量85万トンに対して,再商品化可能量は53 万トンであった。この差32万トンは,そのまま過剰カレットとして野積みに追加される。2001年にはこのカレットの山は236万トンとなる。1万トンのカレットの山は100メートル四方で高さが4メートルである。したがって,過剰カレットの山は236個ということになる(丸尾p.79)。これは市町村や回収業者の保管施設に積み上げられる。日本経済新聞(99.1.5)は,特に需要の少ない緑と黒のワインびんカレットでの業者受け入れの限界を報じている。容器包装リサイクル法によるカレットの回収は間もなく不可能ということになるだろう。 ペットボトルも同様で,97年度の総収集計画量2万4千トンに対して,再商品化可能量は1万7千5百トンという(同)。朝日新聞(99.7.17)によれば,98年度でペットボトルの分別収集量は4万7千6百トンになったという。そして,2001年度の分別回収見込み量は8万9千トンであるが,再商品化見込み量は3万4千トンにとどまっている(倉坂p.192)。この収集量は今後ますます増えるであろうが,需要先が新しく開発されたという報道もないので,この過剰回収は深刻になる。 このペットボトルでは,回収に要する費用の大きさは桁違いである。千葉市の場合,市の負担はキロあたり380円と試算している(諏訪p.315)。これを詳しく言うと,空ペットボトル1本60グラムの回収費用は25円程度であるが,これはキロあたり417円となる。これに加えて,中小企業の再商品化のための手数料も市町村負担ということになっているから,これを加えるとキロあたり428円ということになる(吉野b p.98)。 この費用は,分別回収,簡易洗浄,圧縮梱包,輸送の費用の合計であるが,軽くて丈夫なために,ガラスびんや缶にくらべて重量あたりの費用は約10倍になっている。ペットボトルを回収している全国の市町村の試算ではキロあたり340~730円(永井p.26)であって,おおよそキロあたり500円程度の費用が市町村税で負担されることになる。 この後の商品化工程,つまり素材化は事業者の負担となり,事業者は国が指定した法人に手数料を払って代行してもらうことになるが,その単価はキロあたり約102円である。つまり,素材回収に要する市町村の負担は,この素材を利用して営業する業者の5倍程度となっていて,多くの論者が不公平として問題とするところである。 しかし,実は,問題はもっと別のところにある。使用済みペットボトルを破砕して洗浄して梱包した回収素材の値段は,キロあたり2~3円でしかない。一方,この回収素材を作るのに市町村負担と事業者負担を合計して600円も投入することになっている。これが素材を生産する活動といえるのだろうか。 この600円の内訳を考えると,廃棄物のリサイクル作業は基本的には人力文明なので,分別や運搬に要する人件費が多いと想像がつく。これに加えて,やはり石油文明なのだから破砕や圧縮装置の製造や車の生産,そしてそれらの運転で電力や石油の消費が多いであろう。仮に,200円分の石油を消費したとすると,軽油の値段はキロ50円程度だから,軽油を約4キロを消費して,1キロ3円の不純物だらけの回収ペット樹脂を生産するということになる。石油の無駄遣いもはなはだしい。 この問題の本質は,廃棄物の中から資源を回収する作業がエントロピー増大の工程であることにより生ずる。これは石油の大量消費でなされることになる。つまり回収される石油資源と,消費される石油資源のどちらが大きいか,という問題なのである。 これを確かめるにはLCAにより分析すればよいのだろうが,その必要のないくらい結果は明白で,あまりにも馬鹿馬鹿しくて,誰もこのLCA計算をして見ようという気持ちになれないに違いない。 ペット(ポリエチレンテレフタレート)を含む純度の高いポリエステル樹脂はキロあたり250円程度である。この原料は液体のナフサであるが,これはキロ 15~25円である。この原料ナフサに対応するのがペットボトルの回収素材であるが,これは固体で扱いにくい。しかもごみを多く含み,これでペットボトルを作っても汚くて売り物にはならない。着色や白色化でごまかせるもの,たとえばシャツ,カーペット,卵の仕切りシートといったところに使えるに過ぎない。したがって,回収素材が2~3円にしかならないのは当然であろう。このようなものを作るのに600円もの費用をかけているのである。 中日新聞(99.8.30)によれば,98年度分についての厚生省の集計では,スティール缶は22万5千トン,ペットボトルは23万4千トン,アルミ缶は6万9千トン,ガラスカレットは51万トン余りがリサイクルされず廃棄された。紙パックは現在集計中であるが,96年度では14万7千トンが廃棄された。合計廃棄量は120万トンとなる。 TOP 2-5 ペットボトルや紙パックは焼却が合理的 使用済みペットボトルやその他石油製品について,そのもっとも適切な扱いは,これを分別せず,その他のごみと一緒に燃して,ごみ発電することである。ペット樹脂1グラムの発熱量は約1万力ロリーだから,1キロでおよそ4kwhの電力が得られる。1kwhの電力を約7円で電力会社に売れるとして,30円程度の収入になり,市町村の廃棄物処分費用の一部をまかなえることになる。 多くの市町村で,ダイオキシン対策のためにガス化熔融炉という焼却炉の検討をしている。しかし,ごみの分別を進めてペットボトルや紙くずなどの可燃物質を取り除いた先進的リサイクル市町村の場合,ごみの発熱量が足りず,都市ガスを購入し,その燃焼で焼却温度を維持することになる。したがって,費用が余計にかかるのでガス化熔融炉をあきらめたところが多い。このペットボトルや紙くずの分別回収は本末転倒というべきである。 日本の火力発電では,相当部分は原油をそのまま生焚きしている。そこで,原油を分溜して,ガソリン,ナフサ,灯油,軽油,重油などに分別し,ガソリンと軽油は輸送,ナフサは石油製品,灯油は家庭用とジェット燃料,重油は火力発電に使用する。ナフサ以外はすべて燃しているのである。そこで,ナフサから作った石油製品の廃棄物もそのまま燃して発電することは,原油をそのまま生焚きして発電することに比べてはるかによい方法ということになる。 分別は資源の段階ですべきことである。廃棄物の分別は,ここから採算のとれる希少資源が得られる場合だけにとどめるべきである。石油製品の廃棄物から価値の低い石油素材を分別回収するなどまったく無意味である。 特に,容器包装リサイクル法は,ペットボトル以外のプラスティック容器について油化して利用することを目指している。これは石油資源のないドイツが石炭を液化しようとして開発した技術の応用であるが,莫大な費用(つまり石油など資源)を消費して,質の悪い燃料油を生産することになり,まったく愚かな技術である。油化に熱心だったドイツでは,ペットボトルなどの石油製品を鉄鋼生産の還元剤として使うことにして,1996年には30万トン/年の油化計画を事実上中止したという(丸尾p.69)。 さらに,分別できなかった石油製品を焼却せず,これを処分場に投棄し,処分場の枯渇に困り果てるなどはもっと愚かな行為である。 同様に,紙パックなどの植物繊維を利用した飲料容器も,使用後は焼却し,発電するのがもっとも合理的である。植物繊維の利用は太陽光の利用である。森林を収奪した繊維を利用するのではなく,将来は森林農業により肥料を与えて栽培した繊維を利用することにして,これを一旦飲料容器などいろいろな分野で使用してから,これを含むごみで発電する。これは一種の太陽光発電ということになる。 ペットボトルなどの石油製品も紙パックなどの植物繊維も,完全に焼却されて空気の成分(炭酸ガスと水蒸気)になるから,廃棄物処分場は不要であり,ごみ問題は生じない。いわゆるダイオキシン問題ではこれらの飲料容器には塩素が含まれていないからダイオキシンの発生はない。塩素が多少混ざっても,焼却炉の構造や運転方法で対処できるから,焼却は可燃性容器を処理する最良の方法である。 そして,焼却灰やガラスくずは熔融固化する。結果として発生するのはスラグ(人工岩石)であるが,これは建設,土木事業に使うことができて,たとえば道路や人工干潟,人工藻場の素材となる。 したがって,このようにして可燃性容器と鉄缶とアルミ缶は完全に焼却処理する。残りのガラスなどの不燃性飲料容器を利用する場合には,その使用済み飲料容器から素材を回収することにこだわるのではなく,日本に昔からあったリターナブルシステムを回復することが有意義ということになる。 TOP 問題克服の処方箋 近 藤 邦 明氏 『環境問題』を考える より |
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更新履歴 新規作成:Mar.6.2009 最終更新日:Mar.12.2009 |
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