以下はWTO貿易自由化交渉に関する世界の団体の共同声明であり、タイにあるNGOの「フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス」のウェブに 2004年6月10日付で掲載されたものです。 WTO貿易自由化政策への対案 人々の食糧主権を守る計画が求められている WTOの農業交渉が続いているが、状況の変化はほとんど期待できない。「先進国」も「発展途上国」も自国の主要輸出品のための世界市場へのアクセスの拡大と引き換えに、大多数の民衆にとっての食糧主権と適正な雇用の権利を犠牲にしようとしているようだ。主要な貿易大国や種々の「発展途上国」グループの間で具体的な目標や数値についての諍いはあるが、WTOに加盟しているどの国も、根本的な問題が農業協定(AoA)の枠組そのものにあるという事実を受け入れようとしていないようだ。農業協定は、3つの柱(市場アクセス、国内補助金、輸出補助金)の原則を通じて、世界最大の農業生産者・輸出業者による独占を強化・保護する。 米国とEUは、同じ古い曲を繰り返している カンクンにおけるWTO閣僚会議の失敗以降、米国とEUはいわゆる「ドーハ開発アジェンダ」を持ち出すことによって、行き詰まった貿易自由化交渉を復活させようとしている。しかし、彼らはカンクンで「発展途上国」が農産物貿易に関して示した懸念(EUと米国による関税引き下げ案や、彼らの輸出補助金削減の拒否など)に真剣に応えるような新しい提案を示しているのではない。また、主要な輸出業者はカンクンで抗議した何千人もの農民の懸念に応えようとせず、韓国の農民、イ・ヘギョンさんが自ら生命を絶った原因に関して完全な無関心を示してきた。 米国とEUは「発展途上国」に巨大な圧力をかけ、2004年7月の一般理事会での採択に向けて、彼らの「交渉の枠組」への同意を取り付けようとしている。この枠組は、米国およびEUにおける直接および間接の輸出補助金のレベルを削減する確約は含まず、その一方で発展途上国には非農業産品の貿易や「シンガポール・イシュー」と呼ばれる4つの問題(貿易円滑化、政府調達、投資、競争)の少なくとも1つにおける重要な譲歩と、農産物への関税の大幅引き下げを要求するものである。EUのパスカル・ラミー通商担当委員とフランツ・フィシュラー農業担当委員は最近、G90に宛てた書簡(5月9日付)の中で、彼らの交渉条件が満たされれば輸出補助金の撤廃に応じる用意があると述べている。彼らはG90に対して提案を示すことによって、「発展途上国」間の連帯--さらなる市場開放に向けた新しい試みへの抵抗--を弱めることを狙っている。そのような枠組は、特に「発展途上国」の人々の利益を損ない、この人々がカンクンにおける閣僚会議の失敗によって獲得した地歩を喪失させる。 パリのミニ閣僚会議:農産物貿易の歪みを固定化 5月14日パリで、OECD閣僚会議の後にWTO非公式閣僚会議が開催され、いくつかの国が参加した。参加国はアルゼンチン、オーストラリア、バングラデシュ、ボツワナ、ブラジル、カナダ、チリ、中国、コスタリカ、EU、エジプト、ガイアナ、香港、アイスランド、インド、インドネシア、日本、ケニア、マレーシア、モーリシャス、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェイ、パキスタン、シンガポール、南アフリカ、韓国、スイス、米国である。 このミニ閣僚会議の結果から、7月の交渉の枠組が不公正な農業協定ルールによって支持されている現在の貿易の歪みを是正するものでなく、それをさらに拡大するものであることは一層明確になった。 パリの会議では、米国は他のWTO加盟国から、農業所得安定対策の区分を変更して、従来の区分では適用対象となっていた生産制限義務およびその他の原則から除外するという約束を取り付けたと報じられている。これらの農業所得安定対策は主要に大規模な農業生産者に利益を与える。また、生産・供給管理制度がないため、持続不可能な、大量の農薬・肥料を使用する、輸出指向型の農業とダンピングが永続化される。 一方、EUも、加盟国から、高いレベルの補助金--主要に大規模な農業企業や輸出業者に与えられる--を維持し、持続可能な環境保全型農業への転換や、ダンピング防止のための生産制限を義務付けられないことについての同意を取り付けることができた。 米国とEUは関税撤廃やその他の措置を要求することによって、「発展途上国」、特に中国、インド、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカなどの大きな国の市場をドラスティックに開放しようとしている。その一方で彼らは、大規模な政府補助によって自国の輸出業者を支援し、「発展途上国」に対して公正な通商条件を保証するための供給管理制度の導入を拒否する意向である。 G20諸国はパリでのミニ閣僚会議で米国とEUの関税引き下げ提案を拒否した。しかし、G20は独自の市場アクセスに関する提案を示し、それは「発展途上国」に対しても大幅な関税引き下げを求める内容だった。G20は当初、米国とEUに対抗する強力な政治的勢力として登場し、WTO内における不平等な力関係を暴露してきたが、政策の面では、持続可能な農民主体の農業と食糧主権を犠牲にして大規模なアグリビジネスや輸出指向型生産を促進するという立場を取り続けてきた。G20は、農業自由化という狭い利害関係に固執するならば、「発展途上国」のための新しい農産物貿易政策を提唱する歴史的機会を失うだろう。 貿易よりも食糧主権 現在の条件のもとで7月に交渉の枠組が合意されるならば、それは農産物貿易における一層の歪みとダンピングを容認するものとなり、企業の利益が全世界の人々、特に「発展途上国」の人々に対して勝利を収めたことを宣言するものとなるだろう。現在緊急に求められていることは、国内支持や補助金をめぐる政策変更を交換条件として市場シェアをめぐる駆け引きを行なうことではなく、農業と貿易をめぐる論争の方向そのものを根本的に転換することである。私たちは各国政府に対して、この論争をWTOの交渉から除外し、UNCTAD(国連貿易開発会議)、FAO(食糧農業機構)、UNEP(国連環境プログラム)などの国際的な協議の場を活用して、そのような転換を進めることを提案する。 農業をめぐる論争は貿易ではなく人々の食糧主権を中心に据えなければならない。農業は世界の多数の人々、特に「発展途上国」の人々にとって、主要な雇用機会を提供している。これを少数の者の利潤目的に従属させるべきではない。食糧主権、適正で尊厳のある雇用、健康、環境への配慮を確保する上で政府の関与が不可欠である。政府の関与によって、以下のことを保証しなければならない。 * 小作農、小規模自営農民、漁民が土地、種子、水、融資、技術などの生産手段を利用できること * 国内価格を生産コストに見合うレベルに維持するために、輸入を規制する。 * 過剰生産とダンピングを防止するために生産を規制する(供給管理)。北と南の両方の主要輸出国において、過剰生産を抑制するための供給管理戦略を確立する。 * コーヒー、綿花等の輸出産品について、供給を管理し、生産農民に対する公正価格を保証するための国際商品条約および総合的な国内政策を導入する。価格支持のための措置は貿易業者ではなく小規模農民を対象とするべきであり、企業が所有するモノカルチャーを維持するのでなく、農業生産の多様化を支援することに向けられるべきである。 * 農民による生産と販売、および持続可能な環境保全型農業を発展させるための公的支援。これはグローバル化した金融と貿易の衝撃に耐えることができる堅固な地域経済および国内経済の確立に貢献する。公的支援はダンピングを促進したり、持続不可能な、大量の農薬・肥料を使用する、輸出指向型の農業を永続化するために使われてはならない。 また、小規模農民を対象とした国内支持措置は、生産が国内需要を上回った場合にダンピングが行われるのを防止するために、供給管理制度と組み合わせる必要がある。輸出国が国内価格支持措置によって輸出補助金を隠蔽することは許されるべきでない。それは最終的には大規模生産者と輸入業者の利益となり、輸出を目的とした過剰生産を促進することとなる。 * 国内の生産農民--女性も男性も--が国内市場に自由にアクセスできるように、国内市場を形成し、強化する。 現在のWTOにおける交渉は、世界を偽りの選択に導いている。「発展途上国」が金持ちの「先進国」に対して不公正で不利な交渉上の立場に置かれていることが明白である時、この力の不均衡を是正するために「発展途上国」が現在行なっている提案は、それぞれの国における小規模農民や漁民、労働者、経済的に弱い立場に置かれている住民を保護するものではない。 * 現在のWTO交渉の推進や「ニューイシュー」に関する交渉を中止しなければならない。農業協定の枠組の中での農産物貿易の一層の自由化を求める交渉を中止しなければならない。 * 特に「発展途上国」に対する関税引き下げの圧力を止めるべきである。「発展途上国」は、自国の小規模な、国内向け生産者を保護するために、少なくとも「先進国」が行なっている補助金に見合うレベルに関税を引き上げ、数量制限(QR)を再導入することを許されるべきである。 * ミニマム市場アクセスの義務(各国が国内消費の5%まで輸入を受け入れる義務)や、その他の市場アクセスの義務に関わる一切の条項を廃止するべきである。 * 「シンガポール・イシュー」はWTOから除外されなければならない。 * 投資および競争(「シンガポール・イシュー」に含まれる2つの問題)に関する多国間協定に関わる現在の交渉を中止するべきである。そのような協定は、外国の大規模なアグリビジネスの投資家によって支配され、国内の小規模生産者を一層周辺化させる。 * 農業協定で規定されている国内支持の制度は緊急に再確立されるべきである。すべての国は国内支持制度を活用して食糧主権を保護する権利を持っているが、EUと米国は農業協定の「ボックス・システム」(注:国内補助金を3つの分類に区分し、このうち貿易への影響が大きいとされるものをWTO交渉での削減対象とする)を利用して、小規模生産者や家族生産者よりもアグリビジネスに補助金を与え、大量の農薬・肥料を使用して環境を破壊する農業を支援し、食糧主権を保護することよりもダンピングと輸出による利益を永続化させようとしている。 * あらゆる形態の直接・間接の輸出補助金を廃止するべきである。EUと米国はすべての輸出補助金を無条件に廃止する最終期限を確約しなければならない。EUは特に、砂糖、酪農品、牛肉に対する輸出補助を中止するべきである。米国は穀物およびトウモロコシに対する攻撃的な輸出奨励策を中止するべきである。将来には米国の農業法とEUの共通農業政策(CAP)の改定によって、ヨーロッパと米国の農業を輸出指向型から転換させ、過剰生産を回避するべきである。 * 米国とEUは、多国籍企業による世界的な農業と生産の支配を保証するために採用している「弱い者いじめ」のやり方をやめるべきである。各国政府は、食糧と農業をWTOの管理から除外するために直ちに措置を取るべきである。食糧と農業を交渉の駆け引きに委ねてはならない。より適切な国際的枠組の中で、食料主権の促進のための国際的なルールを導入するべきであり、そのルールは以下のことを保証するべきである。 * 生産コストより低い価格で輸出するために使われる一切の公的支援を禁止する。これは輸出補助金、国内の安い生産価格に関連する「グリーン・ボックス」(「貿易への影響がない」とされる補助金)の直接補助、および他の同様の制度を含む。 * 関税および輸入割当を通じて国内の食糧生産を低価格の輸入農産物から保護する権利。国内の必要を満たすための食糧生産を保護し、発展させることは基本的権利である。「輸出の権利」などというものはない。食糧の輸出は、正当な需要があり、輸出先の国における食糧生産を破壊しない場合にのみ許されるべきである。 * ダンピングを規制するための法的権限を持つ国際機関。国際レベルで価格管理および供給管理の機構(1980年に合意され、89年に発効した「UNCTAD商品協定」のような)が再確立されるべきである。それは各国が国内価格を生産コストに見合うレベルに維持し、小規模農民や小作農がその労働に対する公正な報酬を支払われることを保証するだろう。これは「発展途上国」において、貧困を緩和し、土地を持たない人々に安定的な生活を保証するために、真の農業改革と合わせて、決定的に重要である。 署名団体(6月10日現在) アジア太平洋食糧主権ネットワーク(APNFS) 南北アメリカ研究センター(CENSA)、米国 フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス、インド、タイ、フィリピン 地球の友、ウルグアイ IBON財団、フィリピン 農業・貿易政策研究所(IATP)、米国 総合的農村開発基金(IRDF)、フィリピン ビア・カンペシーナ PKMP、フィリピン パブリック・シティズン、米国 食糧・開発政策研究所(フード・ファースト)、米国 Groups Offer Alternative to WTO's Trade Liberalisation Policies: Plan needed to Protect People's Food Sovereignty Posted Jun 10, 2004 - 01:43 AM Endorsed By: Asia Pacific Network o-n Food Sovereignty (APNFS) Center for the Study of the Americas (CENSA), USA Focus o-n the Global South, India, Thailand and Philippines Friends of the Earth, Uruguay IBON, Philippines Institute for Agriculture and Trade Policy, IATP,USA Integrated Rural Development Foundation (IRDF), Philippines La Via Campesina PKMP, Philippines Public Citizen, USA The Institute for Food and Development Policy (Food First), USA |
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更新履歴 新規作成:Mar.29,2009 最終更新日:Mar.29,2009 |
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