世界貿易機関(WTO)

1.WTOに関する基礎知識

WTO:World Trade Organizationの略称。物品やサービスの貿易についての国際協定を管理し、知的所有権や貿易関連投資などに関する新しい通商ルールを設定し、世界の貿易自由化の推進と貿易関連の国際紛争の解決をめざす国際機関。
(関税貿易一般協定)にかわる国連の準専門機関である。1995年1月に発足。加盟国は2008年7月現在153カ国・地域。本部はジュネーブ。

設立の経緯

WTOの母体となったGATT(関税貿易一般協定)は、その始まりから暫定的な性格をもっていた。第2次世界大戦後(国際通貨基金)、世界銀行(国際復興開発銀行)とともに、自由、無差別、多角主義を基盤とするITO(国際貿易機関)の設立が企図され、その設立協定である「国際貿易機関のためのハバナ協定」が1948年に作成された。ITOが成立するまでの暫定的協定としてその一部をぬきだしてまとめられたのがGATTであり、ハバナ協定がアメリカなどの批准をえられなかったため、GATTが94年まで存続することになった。

GATTの多角的貿易交渉(ラウンド)は計8回開かれた。1986年9月に開始されたウルグアイ・ラウンド</a>は94年4月に終了し、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO設立協定)」が成立した。その後、各国の批准作業をへて95年1月1日に正式に発効してWTOが発足、GATT体制からWTO体制へと移行した。現在GATTはWTO協定の一部を構成している。

機構

WTOはGATT(関税貿易一般協定)とことなり法人格をそなえた国際機関で、組織体制も大幅に強化されている。最高意思決定機関は閣僚会議で、加盟国の大臣クラスによって構成され、少なくとも2年に1回開催される。その下に一般理事会があり、WTO全加盟国の代表者によって随時開催される。ここには、紛争解決機関と貿易政策検討機関も設置されている。
一般理事会の下に3つの理事会(物品の貿易に関する理事会、サービスの貿易に関する理事会、貿易関連知的所有権理事会)と各種委員会および作業部会がある。さらに物品の貿易に関する理事会およびサービスの貿易に関する理事会の下にも、委員会および作業部会が属している

活動

WTOに移行することで新たに対象範囲にくみいれられたり、従来よりも取り組みが強化された分野としては、貿易にかかわる知的サービス貿易、貿易と環境、農業、貿易関連投資措置などがある。これらはいずれも近年重要性をましつつあるにもかかわらず、GATT(関税貿易一般協定)体制下ではじゅうぶんに議論することができなかったものである。また、WTO協定が発効したことで、ルールの適用対象国・対象分野が拡大し、紛争解決手続についても、協議によって紛争が解決することができない場合に法的観点から判断をくだすパネルの設置が容易となり、通商全体への「法の支配」が強化された。
第1回閣僚会議は、1996年12月にシンガポールで開催され、WTO設立後2年間のレビューをおこなった。また、「貿易と投資」「貿易と競争政策」「政府調達の透明性」の作業部会が設置された(これら3課題に「貿易円滑化」をくわえたものを「シンガポール・イシュー」とよび、検討作業が継続中である)。この閣僚会議で、ITA(Information Technology Agreement)が基本合意された。これは、情報関連機器・部品について関税をゼロにするというもので、これらの機器・部品の製造拠点である東アジアの輸出増進に寄与している。

WTO協定の概要
 WTO協定は、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(本体)と附属書1~4からなる。うち、附属書1~3は、ウルグァイ・ラウンド交渉の結果作成される諸協定を収録するものであり、WTO設立協定本体と不可分一体のものとして一括受諾が義務づけられている。
従って、WTOに加盟する国・地域全てが一律にこれらの協定(附属書1~3)を一括して受け入れることとなる。この点は、受諾できるか否かを選択できた東京ラウンドの協定とは全く異なっている。
各協定の概要は次のとおり。
 1) 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定
 世界貿易機関の任務、組織、地位等を規定。閣僚会議が少なくとも2年に1度開催されるとともに、物品の貿易、サービスの貿易、知的所有権の貿易に関連する側面に関する理事会、各種委員会が設けられることとされている。
 2) 1994年の関税及び貿易に関する一般協定(1994年のガット)
 (i)1947年のガットに相当する規定(WTO協定発効前に効力を発生した法的文書により改正等が行われた規定を含む)、(ii)WTO協定発効前に1947年のガットの下において発効した関税譲許議定書、確認書、加入議定書等の法的文書、及び(iii)1994年のガットの不可分の一部とされる第2条1項(b)、第17条等6つの了解等から成る。
 3) 農業に関する協定
 輸入制限、国内助成措置、輸出補助金等についてのガット上の規律強化の観点から、農業貿易を改善するために、各国が市場アクセス、国内助成、輸出競争の3分野における具体的かつ拘束力のある約束を作成し、6年間の実施期間にこれを実施すること及びこれらの約束の実施に関する規律を定めている。
 4) 衛生植物検疫措置(SPS:Sanitary and Phytosanitary Measures)の適用に関する協定
 衛生植物検疫措置が、恣意的若しくは不当な差別の手段や国際貿易に対する偽装した制限とならないようにし、当該措置の貿易に対する悪影響を最小にするため、当該措置の企画、採用及び実施の指針となる規則及び規律の多角的な枠組みの確立について定めたものである。
 5) 繊維及び繊維製品(衣類を含む)に関する協定
 繊維貿易分野は、1974年以来繊維製品の国際貿易に関する取極(MFA:Multi-Fiber Arrangement)の規律に服してきたが、輸入制限等によりガットの原則から大きく乖離していたため、10年間の経過期間をかけて段階的にガットの規律の下に統合し、繊維貿易の自由化を図ることを規定している。
 6) 貿易の技術的障害(TBT:Technical Barriers to Trade)に関する協定
 工業標準や安全・環境面の規制など、産品の規格及び規格適合性を評価する手続(認証)が、国際貿易に不必要な障害をもたらすことがないようにするため、これらの透明性の確保や可能な限り国際規格などへの整合化を図ることなどを定めたものである。
 7) 貿易に関連する投資措置(TRIM:Trade-Related Investment Measures)協定
 貿易に関連した投資措置であって、1994年のガットの内国民待遇違反及び数量制限の一般的禁止の規定に反するものの撤廃を規定。ローカルコンテント要求や輸出入均衡要求が明示的に禁止された。
 8) 1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定(アンチ・ダンピング協定)
 アンチ・ダンピング措置が国内産業保護のための手段として恣意的に濫用されたり、誤用されたりすることを防止するために、ダンピングマージンの計算方法、ダンピング調査手続等に関して規律の厳格化・明確化を図るものである。
 9) 1994年の関税及び貿易に関する一般協定第7条の実施に関する協定(関税評価に関する協定)
 ガット第7条(関税評価)の実施に一層の一貫性、確実性を与えるために、同条の適用のための規則を詳細に定め、恣意的な評価制度を排除し、関税評価制度を国際的に統一することを目的とするものである。
 10) 船積み前検査(PSI:Preshipment Inspection)に関する協定
 船積み前検査(PSI)の透明性を確保するとともに、船積み前検査機関と輸出者との間の紛争解決メカニズムを提供することを目的としている。
 (注)船積み前検査
 輸入国(主に開発途上国)から指定を受けた船積み前検査会社が、輸入国の税関当局に代わって商品の船積み前において輸出国の領域内で商品の品質、数量、価格、関税分類、関税評価等について検査を行い、証明書を発給する制度。
 11) 原産地規則に関する協定
 非特恵分野に適用される原産地規則を調和するための作業計画を規定するとともに、規則の制定・運用にあたって遵守すべき規律、原産地規則委員会等の設置、紛争解決手続等を規定している。協定上の作業計画では、作業開始後3年以内(1998年7月)に完了するものとされているが、現在も原産地規則の調和作業が推進されている。
 12) 輸入許可手続に関する協定
 各国の輸入許可手続が不必要な貿易障害にならないように行政上の手続を簡素化し、かつ、これら手続の公正な運用を確保することを目的とするものである。
 13) 補助金及び相殺措置に関する協定
 補助金に係る規律の強化・明確化の観点から、定義の明確化、類型別の規律の強化(禁止補助金の範囲の拡大等)、相殺関税の発動手続の強化・明確化等を図ったものである。
 14) セーフガードに関する協定
 ガット第19条のセーフガード措置(緊急輸入制限措置)の適用につき、発動要件・手続及び措置の内容等につき規律の明確化を行ったものである。
 15) サービスの貿易に関する一般協定(GATS:General Agreement on Trade in Services)
 サービスに係る155の業種を対象に、通商の基本原則である最恵国待遇、内国民待遇の原則が確立された。ただし、最恵国待遇については、例外登録が認められ、また、内国民待遇の付与義務及び市場参入規制の撤廃についても具体的個別約束を通して決められる。
 16) 知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS:Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)に関する協定
 工業所有権の保護に関するパリ条約、著作権の保護に関するベルヌ条約等に定められた知的財産の保護の水準を引き上げ、これらをすべてのWTO加盟国が遵守することを確保するとともに、最恵国待遇、内国民待遇を規定。さらに、権利の実現のための国内的権利行使手続(司法手続及び行政手続)の整備を義務づけた。
 17) 紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU:Understanding on Rules and  Procedures Governing the Settlement of Disputes)
 WTO協定に係る紛争の解決に関する共通の規則及び手続を規定するものであり、一方的措置の禁止、紛争解決のための小委員会(パネル)の設置及びパネル報告の採択の自動性、紛争解決に係る時間的枠組、上級委員会の設置等により紛争解決手続の一層の強化が図られている。
 18) 貿易政策検討制度(TPRM:Trade Policy Review Mechanism)
 WTO加盟国の貿易政策を定期的にレビューし、多角的貿易体制の強化を図るもの。

問題点など:
WTOとは何だろう?
WTO貿易自由化政策への対案
WTO用語集

関連情報:

 外務省

  世界貿易機関(WTO)    
 経団連

  日本経団連WTOミッション ポジョション・ペーパー 2002年9月11日(社)日本経済団体連合会国際経済本部
  WTO香港閣僚会議に向けた緊急提言 2005年12月5日(社)日本経済団体連合会

 JA全農

  国際食料農業レター INDEX JA全中
  WTO用語集 JA全中

 その他

  世界貿易機関(WTO)モニター INDEX



WTO香港閣僚会議の結果概要(農業関連部分)


WTOつぼの壷


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更新履歴 新規作成:Mar.23,2009
       最終更新日:Mar.23,2009

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